【Q】リモートが増えオンとオフの境目がない
仕事とプライベートの両立に悩んでいます。リモートワークで家でも仕事ができてしまうから、なかなかオンオフがつけられず……。寝る前の30分間だけでも、現実を忘れてどっぷりと空想世界に浸れるようなおすすめ本を聞きたいです。(26歳・会社員・千葉)
【A】リアリティのある幻想世界を楽しんでほしい
◆『密やかな結晶 新装版』小川洋子
「僕もプライベートの境目が曖昧な仕事なので、この悩みはめちゃくちゃ共感できます。おすすめしたいのが島が舞台となっている小説『密やかな結晶』。島民たちの記憶が一つずつなくなってしまうという、ファンタジーです。
小川洋子さんの作品が好きでよく読むんですけど、刺激的というよりリアリティのある幻想世界が美しい文章なので楽しんでもらえるはず。一章ごとが番号で細かく振られてまとめられているので、寝る前の30分間で読みたいときにちょうどいい長さです」(ニシダさん)
『密やかな結晶 新装版』小川洋子
講談社文庫 902円
【Q】人と比べて自分はダメだと落ち込む
他人と自分をすぐに比べる性格を直したいです。結婚した、子供を妊娠した、人気企業に転職したなど、友人や同僚の幸せ話を耳にすると、嫉妬心を覚えながら、自分ってダメだなと落ち込みます。自己肯定感が低いのは不幸ですよね……。(32歳・派遣・静岡)
【A】自己肯定感が低いのは悪いことではないと思える
◆『コンプレックス・プリズム』最果タヒ
注目の詩人・最果タヒが10代のころに抱いていた劣等感にスポットを当てたエッセイ集。
「自己肯定感が低い=不幸だと思わなくてもいいんじゃないでしょうか。僕ら芸人なんて、ダメなところをさらけ出して飯を食ってますからね。コンプレックスがあるからこそ出せる人間味や面白味もある。嫉妬心もうまくほかのものに置き換えられたら、ポジティブな原動力になるかもしれない。そんなことを思いながら、美しい文章で書かれたコンプレックスにまつわるエッセイを読んでみてほしいです」(ニシダさん)
『コンプレックス・プリズム』最果タヒ
大和書房 1,320円
【Q】組織に頼らずにひとりで生きていくには?
会社、やめたいです。30歳を境に人生どうしようかなと思いはじめて。僕は37歳なんですけど、組織に頼らず、ひとりで生き抜く勇気をもらえる一冊を教えてほしいです。実家が青森なので東京との二拠点生活もいいなとぼんやりと思っています。(37歳・会社員・東京)
【A】周りの人たちの助けがあってこそと気づく
◆『アロハで猟師、はじめました』近藤康太郎
東京都渋谷区育ちの新聞記者が自給自足するために移り住んだ地で、獣害に悩む近隣農家に頼まれて素人猟師をしながら生きる知恵を得ていく。
「相談者の方と通じる部分があるのでは、と思い選びました。“ひとりで生き抜く勇気”とありますが、著者も最初はひとりで移住する。けれど、近隣の人たちに農業のやり方や猟の仕方を教えてもらいながら、ひとりでは生きていけないことを学んでいくんです。ご自身と照らし合わせて、何かを感じ取ってもらえたら嬉しいです」(ニシダさん)
『アロハで猟師、はじめました』近藤康太郎
河出書房新社 1,760円
【Q】将来に楽観的すぎる息子が心配
中学生の息子に「将来、なんかやりたいことないの?」と聞くと、「別にない。なんとかなるっしょ」とのらりくらり。いやいや、そんなに甘いもんじゃないと心配が募るばかりなのですが、10代の子が職業を考えるのに参考になる本を教えてください。(45歳・会社員・東京)
【A】“当たり前”にとらわれない生き方に触れる
◆『人は2000連休を与えられると どうなるのか?』上田啓太
大学卒業後、人生に行き詰まりを感じて仕事を辞めた著者が一畳半の物置きで6年間過ごした2,000以上もの連休について綴ったノンフィクション作。
「哲学的な視点もあり、働くことを考える契機になる一冊。この本を読んで働かなきゃと思う人もいれば、逆に働かなくてもいいかと思う人もいるのかも。今後は既存の枠組みにとらわれない職業も増えていくので、こういう生き方もあるんだなと思いながら読むと、新しい発見が得られるんじゃないでしょうか」(ニシダさん)
『人は2000連休を与えられると どうなるのか?』上田啓太
河出書房新社 1,628円
ニシダさん
お笑い芸人
1994年7月24日生まれ、山口県出身。2014年、サーヤさんと漫才コンビ「ラランド」結成。芸人としての活動のほか、書評や小説の執筆も行っている。
嬉しかった贈りもの:ファンから差し入れでもらったiPad mini。
2022.12.29(木)
Text=Aki Takamoto
Photographs=Kiichi Matsumoto