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堂々と人差し指を使って?

 もし、自分が奉納するとしたら、どんな羅漢がいいだろう?

 後世に残すなら、スーツケースを颯爽と引く旅羅漢であろうか。生きている間にキラキラできそうにないから、石像ぐらいカッコつけてもいいじゃないか。そんなことを考えながら、誰もいない山の中でシャッターを切っていると、今までの昭和羅漢が粉々に吹き飛ぶ、特級の衝撃羅漢が……!

 鼻……指……この人、鼻ほじっている!!

 いくらなんでも、何かの間違いだろう。いや、お釈迦様の弟子だって鼻くらいほじるかもしれないが、……考え事しているのかもしれない、と近づいてじっくり見たが、確かに人差し指を鼻の穴に突っ込んでいる。

 ねえ、おじさん、どうしてこのポーズをチョイスしたの?

 私はただ茫然と立ち尽くした。誰も止めなかったのだろうか。顔を覆う苔がちょうど髪の毛やモミアゲに見えて、年月が経つほどリアルさが増していく気もする。今にも指がグニグニと小刻みに回転しそうな鼻ほじ羅漢に、「キラキラ? ふっ、お前は見栄っ張りよのぉ」と鼻で笑われているようで、どうにも負けた気分になった。

もはや何も気にならない

 想像をはるかに超える羅漢の数々に、私はお腹いっぱいになって、もう帰ることにした。最後に股覗をしている羅漢を撮影したが、もはや股を覗いている理由は気にならない。その人にしか分からない楽しみがあるのだろう。

 お金に執着する人も、鼻をほじるのがクセの人も、股覗きが好きな人も、いろんな人のいろんな人生がある。人間の多様さと昭和という時代を、笑いをもって全力で教えてくれる東堂山の昭和羅漢、私は全力で“推し”ます。ひっそりしているけれど、バス停から歩いて45分かかるけど。死ぬまでに一度は見たい日本の奇像、ぜひ行ってみてください。

東堂山満福寺 五百羅漢像

所在地:福島県田村郡小野町小戸神日向128
アクセス:郡山駅からバス小野線で50分。行定停留所下車、徒歩45分。または車で磐越自動車道小野I.C.より10分ほど。

旅メモ:昭和羅漢から車で約15分、同じ小野町にテーマパーク「リカちゃんキャッスル」も。懐かしい歴代のリカちゃんファミリーが大集合です。

白石あづさ

ライター&フォトグラファー。3年に渡る世界放浪後、旅行誌や週刊誌を中心に執筆。著書にノンフィクション「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」「佐々井秀嶺、インドに笑う」(共に文藝春秋)、世界一周旅行エッセイ「世界のへんな肉」(新潮文庫)など。「おとなの週末」(講談社BC)本誌にて「白石あづさの奇天烈ミュージアム」、WEB版にて「世界のへんな夜」を連載中。Twitter @Azusa_Shiraishi

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Column

白石あづさのパラレル紀行

「どうして世間にはこんな不思議なものがあるのだろう?」日本全国、南極から北朝鮮まで世界100か国をぐるぐると回って、珍しいものを見てきたライターの白石あづささんが、旅先で出会ったニッチなスポットや妙な体験談をご紹介。

2022.11.05(土)
文・写真=白石あづさ