人生で一度はやってみたい
さらに参道をすすむ。大きな杉の木の股にも羅漢がいて手に何かを持っている。本? いや、まさか……。
手にしているのは万札ではないか! 大口を開けて「ひゃー、はっはっは!」とばかりに笑っていらっしゃる。膝にも札束が山積みだ。煩悩を消すどころか、煩悩大爆発である。
お金はあの世まで持っていけないというが、案外、持っていけるんじゃないかと思うほど、心の底から嬉しそうな笑顔に一周まわって癒されるから不思議だ。この方は天国に行っても毎日、お札を数えているに違いない。
400体近い羅漢像の圧に震える
仁王門をくぐると、参道の坂道は急こう配になり、羅漢の数もどっと増えてきた。JTがほっとかないんじゃないかと思うほど、うまそうにキセルを口にする羅漢がいれば、子供のように両手にスイカを持って大口を開け、夏を大満喫中の羅漢も。一段、階段を上がるたび、自由過ぎるワンパク羅漢がこれでもかとばかりに登場する。私は“ちむどんどん”しながら、ついに観音堂までたどり着いた。
そしてついに観音堂まで辿り着いた。この裏の山に羅漢様の本陣があるのだ。
さっそく裏手にまわると、おおお! 山の斜面を埋め尽くす膨大な羅漢が。
謎ポーズの羅漢に慣れてきた私は、次にどんな羅漢が出てこようとさほど驚かない自信はあった。しかし、こちらにジッと視線を向けた400体近い羅漢像の圧に震え上がった。
「来たぞ、来たぞ、目の細い猫背の中年女が来たぞぉー!」という、声が聞こえてきそうである。
手にしていたカメラのレンズを覗くと、やはり顔認証センサーが作動し、次々と無数の羅漢の顔をとらえて四角い囲みが揺れている。しかし、不思議なことにビビビと顔認証する羅漢と、全く「ビ」しない羅漢がいるのである。なぜだ。
いろいろ理由を考えると怖くなったので、できるだけ、ほのぼのしてかわいい羅漢を探すことにした。
2022.11.05(土)
文・写真=白石あづさ