●初対面の人でもすぐに馴染める得な性格

――とはいえ、『アルプススタンドのはしの方』の消極的な性格の元野球部員・藤野と、人見知りとは無縁そうな実際の平井さんはだいぶ違いますよね?

 「映画版」の前に、僕以外はほぼ同じキャストで「舞台版」を上演していたんです。でも、藤野だけ新たなキャストで「映画版」を作ることになって、すでに出来上がっている人間関係や空気感に、すぐに馴染めそうな奴を探していたみたいなんです。それで僕が選ばれたと(笑)。確かに、初対面の人とすぐ仲良くなれるスキルは高いと思います!

――今でこそ、スマッシュヒットを飛ばし、名作となった『アルプススタンド~』ですが、撮影時は苦労が絶えなかったと聞いています。

 出演が決まったのはクランクインの2週間前でしたし、そのときは舞台をやっていて、千秋楽の次の日がリハーサルだったんです。それで稼働は5日程度だったのですが、少人数での会話劇なので、かなりのセリフ量を入れるのが大変でした。じつは藤野が持っているカバンの中には、常に台本が入っていて、カットがかかるごとに次のシーンの確認をしていました。

――公開後の大きな反響については、どのように捉えていますか?

 正直な話、そこまでの反響をいただけるとは思っていなかったので、ビックリでしたね。今もあの作品で知ってくださって、声をかけてくださる方が多いですし、いろんな現場のスタッフさんや業界の方からも「観ましたよ!」と言われますし、とても有り難い作品ですね。『ほとぼりメルトサウンズ』で演じたサラリーマンの山田も、『アルプス~』を観た東かほり監督が僕を当て書きしてくださった役ですし。まさに、僕にとって転機となった作品だといえます。

●即時の対応力を学んだ主演作『神田川のふたり』

――そして、翌21年に上演された「舞台版」でも藤野役を演じられました。

 僕は「関西チーム」だったので、「映画版」では標準語だったセリフが関西弁になり、小ネタも増えたり、藤野も陰キャ寄りになったりと、いろいろと壊す作業があったんです。そういう意味では、「映画版」より「舞台版」の方が大変でしたが、オリジナルの「高校演劇版」に出演していた女優さんがいたり、ゴッタ煮の感じなキャストは、とても刺激的でした。

――最新出演映画『神田川のふたり』では、中学のクラスメイトの葬儀の帰りに、元同級生と一緒に神田川沿いを歩く、高校生の智樹を演じています。冒頭40分は、ワンカットで撮られていますね。 

 台本の読み合わせが終わった後、クランクインの2週間ぐらい前に、いまおかしんじ監督から「最初はワンカットにしたい」という案を聞きました。いちばん初めに撮ったんですが、セリフを噛んでも使われていますし(笑)、いろんな事件が起こっていますし、どこかドキュメンタリー的な目線で観てもらえたら嬉しいですね。その後も、役者に変な擬音を発せさせたり、独特なポーズを取らせたりする、いまおかさんならではの演出を楽しんでいただきたいです。

――平井さんのキャリアにおいて、本作はどのような一作になったと思いますか?

 決められたことしかできないのではなく、その場に応じて臨機応変に対応する。そういう人間力みたいなものをたくさん学べた現場だったと思います。今26歳ですが、まだまだ制服は着たいし、学生役はやりたいと思いましたし。

●俳優業に留まらない活動への憧れ

――今後の展望や目標を教えてください。

 俳優としては、今はファニーなキャラクターをいただけることが多いですが、今後は幅を広げるという意味で、悪いキャラクターも演じてみたいですね。

 あと、自分の人間力を磨きつつ、俳優業に留まらず、音楽的な活動だったり、バラエティ的な活動だったり、いろんな仕事に関わっていきたいと思います。もともとの趣味を仕事に変えていくということにも憧れていて、菅田将暉さんやタカハシヒョウリさんみたいになりたいですね。

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平井亜門(ひらい・あもん)

1995年9月28日生まれ。三重県出身。2017年、雑誌「smart」のモデルオーディションでグランプリに輝く。以降、モデル・俳優として活躍するなか、城定秀夫監督作『アルプススタンドのはしの方』(20年)での演技が各方面から高い評価を得る。

『神田川のふたり』

中学時代のクラスメイトの葬儀に参加した高校2年生の舞(上大迫祐希)と智樹(平井亜門)。互いに気がありながら、その思いを伝えられず別々の高校へ進学していた2人は、自転車を押しながら神田川沿いを歩く。その後、亡きクラスメイトが思いを寄せていた女性に会いにいくことに。
(C)2021 Sunny Rain
9月2日(金)より、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
http://is-field.com/kandagawanofutari/

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