学生演劇から舞台化、映画化された『アルプススタンドのはしの方』の藤野役で一躍注目を浴びた平井亜門。その「映画版」「舞台版」での裏話、主演最新作『神田川のふたり』で挑んだ冒頭40分ワンカット撮影のエピソードなどから、彼の人間力溢れる人柄が見えてきました。

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●オーディションではオリジナル曲を披露

――幼い頃はどんな夢を持っていたんですか?

 小・中学とサッカーをやっていましたが、とにかく歌うことが好きだったので、音楽に携わることのできる仕事に就くことだったり、単純に「歌えたらいいなぁ」と思ったりしていました。高校は軽音楽部の幽霊部員だったのですが(笑)、卒業して名古屋にある音楽系の専門学校に通い、軽くギターもやっていました。

――ちなみに、プロフィールには「危険物取扱者(乙種第4類)」取得と書いてあります。

 通っていた高校が工業高校だったこともあり、生徒は基本取らなきゃいけない。取得必修の資格です。灯油や軽油、ガソリンの扱いといった引火性液体の取り扱いができることで、ガソリンスタンドで働くときに有利なんです。

――その後、雑誌「smart」モデルオーディション2017でグランプリを受賞されます。

 その頃は役者の勉強も少ししていたのですが、やはり何かしらのチャンスをつかみたかったですね。それで自分にとってのエンジンになればいいかなと思い、応募しました。自由審査では、自分で作ったオリジナル曲を歌いましたね。

●レッスンより実地の重要性を感じた舞台

――それを機に、本格的に俳優としても活動されますが、当時印象的だった作品は?

 初めて役をもらえたのが、兵庫県加古川市発の映画『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』(18年)という作品なのですが、今観返すのも恥ずかしいぐらい演技が鬼ヘタクソですね。でも、そういう経験を積むことで、どんどん責任感が出てきたと思います。ただ、演技レッスンに関しては、講師の方に追い込まれる感じのものは、ちょっと苦手でした。

――19~20年ぐらいは、多くの舞台にも出演されていましたね。

 今でこそ、出演作の繋がりでお声をかけてもらうこともありますが、当時は「誰やねん!」な存在だったわけで、舞台での経験を通じて人前に出ることや、ひとつの作品を作り上げていくことを学ばせてもらいました。レッスンよりも、実地の重要性みたいなものを感じているので、後輩にも「どんどん舞台をやった方がいい」と言っています。

――そして、MOOSIC LAB 2018 長編部門に出品され、後に一般公開もされた『左様なら』の飯野役で注目されます。

 初めて重要な役どころをもらえた作品ですね。高校を舞台にした群像劇だったのですが、あまり現場慣れしていない子たちもいるなか、いい意味で文化祭の延長というか、みんなで作り上げていった感じがしますね。じつは僕が『左様なら』の舞台挨拶で喋っている姿を見たプロデューサーさんが『アルプススタンドのはしの方』(20年)の藤野役に起用してくださったんです。

2022.09.02(金)
文=くれい響
撮影=平松市聖
ヘアメイク=伊藤里香