先住民文化を体感したあとは、ミュージアムで学びの時間

 さて、最後にご案内するのはミュージアム。五感でアボリジナルの文化を体感したら、その奥深さをもっと掘り下げて知りたくなるはず。

 オーストラリア各地にある国立・州立博物館の多くには、先住民をテーマにしたコーナーが設けられ、その土地で紡がれてきた歴史や文化のさまざまな側面を学ぶことができます。

 南半球最大級のミュージアムであるメルボルン博物館には、2013年にリニューアルオープンした「ブンジラカ・アボリジナル・カルチュラル・センター」が。地域の人はもちろん、旅行者にとっても大切な学びの場となっています。

 かつてオーストラリアには、約500のアボリジナルの人々の “国” が存在し、約250もの異なる言語グループがあったといいます。ビクトリア州にもたくさんのコミュニティと言語がありましたが、19世紀半ばからのわずか150年余りで、その多くが失われてしまいました。

 展示コーナーのなかには言語をテーマにした一角もあり、そこではビクトリア州のアボリジナルの人々が話した38の言葉を実際に聞くことができます。

 歴史を学ぶエリアには、約250万~4万年前までオーストラリアに生息したとされるディプロトドンの復元想像図が。この大型有袋動物が生きていた時代から、先住民たちもこの大陸で暮らしてきたのです。

 また、先住民たちが日々の食料として親しみ、神話にも登場する大切な植物「ムルノン(ヤム・デイジー)」に関する展示も。

 かつてメルボルン一帯は、非常に柔らかな土で覆われ、そこにたくさんのムルノンが花を咲かせたといいます。しかしヨーロッパからの入植が始まると土が踏み固められてしまい、この花はまったく育たなくなってしまったのだそう……。

 世界創生の神「ブンジル」の世界観をキネティックアートで表現した展示も幻想的。美しい視覚的な演出に魅了されます。

 約6万年前にまでさかのぼる壮大な人々の歴史について、ミュージアムで学べるのはほんの一部。でも、それをきっかけとして先住民について理解を深める旅は、唯一無二のものになるに違いありません。

 せっかく博物館を訪れたなら、そのほかの展示もぜひ。必見は、今年3月から展示がスタートした “世界で最も完璧なトリケラトプスの化石“。とにかく圧巻です!

2022.06.21(火)
文=矢野詔次郎
写真=鈴木七絵
協力=オーストラリア政府観光局