TRIP 5. アボリジナルの食文化を楽しむ “愛され系” カフェ
国民の約1/4が海外生まれという多民族・多文化国家オーストラリア。世界各地からの移民がもたらしたカルチャーが融合して、日々新しい魅力が生み出されています。
その一方で、独自の世界観で旅人の心をも大いに魅了しているのが、約6万年以上前からこの大地で暮らしてきた先住民、アボリジナルとトレス海峡諸島の人々の文化です。
まずは、アボリジナルの人々の食文化を気軽に味わえるカフェからご紹介しましょう。
超高層ビルが林立するシドニー中心街からほど近いにもかかわらず、昔ながらの街並みが残るグリーブ地区。そのアーケード通りにたたずむのが「ザ・リリパッド・カフェ・シドニー」。
料理担当のラッチオさんと接客担当のナヨカさんのご夫妻が2020年にオープンしたカフェで、コロナ禍でのスタートでしたが、今ではすっかり地元の人たちに愛されるカフェとなっています。
お店の特色といえば、アボリジナルの伝統を取り入れたメニュー。実はナヨカさんのルーツは、ケアンズ近郊に暮らすアボリジナルであるイディンジ。
古くからアボリジナルの人々が口にしてきたものを、誰にも気軽に味わってほしいと、オリジナルのカフェフードを提供しています。
オーストラリアの風土が生み出す自然食材を大切にしてきたアボリジナルの人々。雄大な大地とともに育まれた食文化は、近年では “ブッシュタッカー”、“ブッシュフード” とよばれ、注目を集めています。
レシピ作りにあたっては、イディンジの長老たちから食にまつわる古くからの知恵を借りたそう。
ワトルシード、レモンマートル、ペッパーリーフ、ブッシュソルトなど、オーストラリア特産の自然の恵みを取り入れ、その豊かな滋味と香りが伝統食材のおいしさを強く引き立てます。
「カンガルーのお肉を使ったハンバーガーもおすすめですよ」とナヨカさん。では、それを……。
「あ、今日は売り切れでした(笑)」
そこで、ビーガンミートを使ったハンバーガーを注文してみます。
パテには、さまざまなアボリジナルの伝統的なハーブや調味料が使われていて、旨みが濃いのに驚き!
カンガルーのサラミやチョリソなどを盛り合わせた一皿もオーダー。高たんぱく、低脂肪のカンガルーのお肉は、濃厚風味。
野菜は、伝統的なハーブやナッツなどから作ったディップソースをつけて。一度食べるとクセになる味わいです。
スウィーツメニューでは、パンケーキが人気。オーストラリア原産のストロベリーガム(ユーカリの一種)、ブンヤナッツ(南洋杉の実)などのブッシュフードをちりばめたオリジナルスタイル。優しい甘さに心が和みます。
「うちのカフェは、先住民も、ビーガンも、LGBTQIA+も、すべての人を大歓迎です」とナヨカさん。そこで、メニューの多くは、ビーガン、ベジタリアン、グルテンフリーなどにも対応しているとのこと。
食の世界でもマイノリティへの配慮が広く行きわたっているのは、多文化国家オーストラリアならではです。
2022.06.21(火)
文=矢野詔次郎
写真=鈴木七絵
協力=オーストラリア政府観光局