●自分を見失わずに撮っていくこと

――本作は、監督にとって、どのような一作になったと思いますか?

 自分の人生を俯瞰して語ることは難しいですが、自主映画の時から今日まで基本的には手作りでコツコツと作ってきた印象は変わりません。大きなヒット作があるわけでもないのに、ここまで来ることができたのはとても幸運でした。この作品は二十代の区切りといえる作品になったと思います。

 これまで、ずっと死という記憶を描いてきたんですが、この映画を撮り終えたときに、「ここでひと区切りかな」と思えたんです。それもあって、これからは生命力とかパワーを秘めた作品を作っていきたい、という気持ちも強いです。

――将来の展望、目標について教えてください。

 作品の大きさや評価、公開規模といった外的な要因に振り回されずに、とにかく自分のやることを見失わずに一作、一作撮っていくことが大事だと思っています。エンターテインメントとしての映画というものを、これからはもうちょっと追求していきたい気もしています。

 先日、幸運にもジブリパークの宣伝動画を監督させてもらったんですが、そこで「女の子が走る!」というシンプルな表現をしてみて、すごく楽しかった。それをとても解放的に感じ、今そっちの興味も強まっているところなんです。

――特に憧れている映画監督は?

 死んだ友人が好きだったタル・ベーラ監督の映画を観たとき、決して明るく楽しい作品ではなかったけれど、映画の表現力の深さにとても驚かされたんです。寅さんやジブリみたいな国民的な映画と対極にありますが、映画という広場では同じところに存在している。そのことにシンプルな感動を覚えます。

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中川龍太郎(なかがわ・りゅうたろう)

1990年1月29日生まれ。神奈川県出身。詩人として活動を始め、慶應義塾大学文学部に進学後、独学で映画制作を開始。短編時代から海外で高い評価を得ており、フランスの映画誌カイエ・デュ・シネマから「包み隠さず感情に飛び込む映画」と絶賛される。2018年の『四月の永い夢』はモスクワ国際映画祭において、国際映画批評家連盟賞・ロシア映画批評家連盟特別表彰という、邦画史上初のダブル受賞を果たした。

映画『やがて海へと届く』

引っ込み思案な性格な真奈(岸井ゆきの)は、自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会う。2人は親友になるも、すみれは一人旅に出たまま突然姿を消してしまう。それから5年、真奈はすみれのかつての恋人・遠野(杉野遥亮)から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。

https://bitters.co.jp/yagate/
2022年4月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2022.04.08(金)
文=くれい響
写真=平松市聖