10歳の時に出演した『湯を沸かすほどの熱い愛』で鮮烈な印象を与え、2021年は映画『空白』、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」等での演技で多くの人の心を掴んだ伊東 蒼さん。

 『パラサイト 半地下の家族』で知られるポン・ジュノ監督作品等、多くの映画に助監督として参加してきた、片山慎三監督の商業映画デビュー作『さがす』で、突如姿を消した父・原田智(佐藤二朗)を必死にさがす原田楓役を演じている。

 現在16歳ながら、役者としてのキャリアは11年。作品を重ねるごとにその繊細な演技に称賛の声が集まっている。インタビュー当初は緊張しながらも、演技の話になると目を輝かせて話をしてくれた伊東さん。『さがす』や過去に出演した作品への想い、今ハマっていること等、彼女の素顔に迫ってみた。

「台本を読んで、この機会を逃したくないと強く思ったんです」

――『さがす』の台本を読んだ時、「難しそうだけどこの役をやりたい」と思ったそうですが、具体的にどのあたりが難しそうだと感じましたか?

 まず、「全く経験のないことばかり」という印象がありました。お父さんがいなくなることも、自分より圧倒的に強くて怖い人に向かっていくという経験もない。もし私が楓ちゃんと同じ立場になったら、あんなに勇敢に指名手配犯に立ち向かっていくこともできないと思ったので、全部の感情を想像で演じなきゃいけないところがすごく難しいなと思いました。でも、自分と全く似ていない役は、より「挑戦してみたい」と思うんです。

――撮影現場で片山監督からひとつのシーンに対し、何度も「もう一回」とリクエストされたそうですが、今作で成長できた部分はありますか?

 最初は、テイクを重ねていくことで、はじめに感じていたことに慣れていったり、自分のリアクションがわざとらしくなっていくんじゃないかっていう不安な気持ちはありました。でも監督が「どういう風にしてほしい」という具体的な指示をくださったり、何度も同じシーンを撮影しながら「楓ちゃんだったらどうするかな」って考えていったりする中で、自分の中での楓ちゃん像がプラスされていきました。

 特に印象的なのが……警察官の方に楓ちゃんが「一体誰を探してんの?」って言われるシーンがあるんですけど、そのセリフは元々台本にはなくて、現場で監督が足されたんです。それもあって、そのセリフを言われた時に自分の中ですぐに返す言葉が出てこなくて……そこで「ほんまに誰を探してるんやろう?」っていう不安な気持ちを覚えて、楓ちゃんの気持ちがよりわかった気がしたんです。

 でも、すぐに言葉が出てこなかったことが悔しくもあって……。そうやって全然想像していなかった感情が撮影中に芽生えてくることもあったので、どんどん自分の中で楓ちゃんが大きくなっていくと感じました。

 そういう経験をしたことは初めてだったので、大きな学びになりました。

――『さがす』は、親子関係や倫理観といった様々な問題を描いていますが、作品についてどんな印象を持ちましたか?

 ずっと緊張感のような怖さがある中でも笑える部分があったり、楓ちゃんが指名手配犯にあまりにも勇敢に立ち向かっていくので、脚本を読んでいくうちにどんどんそれが普通なことのように思えてくるんですけど、振り返ってみると、改めてすごく怖い状況だなって。その差みたいなものに対してより恐怖を感じました。

 映画として私がすごく好きな作品ジャンルなので、もし自分が出演していなくても、オーディションに参加していなくても、上映していたら絶対に観たいと思う作品です。撮影している時もそう感じてはいたんですが、完成した作品を観て、よりこの作品に関わらせていただけたことに感謝しています。

2022.01.21(金)
文=小松香里
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=伏屋陽子(ESPER)
スタイリスト=山口香穂