観る者の感情を揺さぶる演技をどう生み出したか

 2019年に公開され、国内にセンセーションを呼び起こした映画『新聞記者』。第43回日本アカデミー賞では最優秀作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞の3冠を果たしたこの力作が、Netflixのオリジナルドラマとしてリブートされた。

 Netflixシリーズ「新聞記者」(全6話)は、国家主導の公文書改ざん事件をめぐるサスペンス・エンターテインメント。真実を白日の下にさらそうとする新聞記者・松田杏奈(米倉涼子)、職務を全うしていく中で事件に関与してしまった官僚・村上真一(綾野 剛)、時代の不穏な空気を感じ取る大学生・木下亮(横浜流星)といった「報道・政府・市民」それぞれの立場の人々のドラマが複雑に絡み合っていく群像ドラマだ。

 今回は、この勇敢な作品に挑んだ米倉と綾野にインタビュー。観る者の感情を揺さぶる演技をどのように生み出したのか、そのアプローチを伺いつつ、ふたりの仲の良さが伝わるリフレッシュの仕方、オススメのNetflix作品についても教えてもらった。

「魂の炎が消えていく情感が、作品の灯になったら」

――11月10日に行われたイベント「Netflix Festival Japan 2021」に登壇された際、米倉さんは藤井道人監督の演出を受けるなかで「(役の)構想がすべて壊された」と仰っていましたね。

米倉 役作りは当初、私が実際に拝見した新聞記者の方々や、或いは新聞記者を描いた映画やドラマなどを参考に、エネルギッシュなキャラクターをイメージしていました。

 ただ、私があまり力強く行き過ぎてしまうと作品自体のトーンもそうなってしまうから、適度なバランスを取りつつ、ですが……。その後、藤井監督とも話しながら、もう少し想いをこらえたなかで辛抱を積み重ねられる、未来に向かって継続できる女性という方向性に変化していきました。

 「新聞記者」はこの3人(米倉・綾野・横浜)だけではなく、全ての人たちが色々な想いを背負っている作品だと思います。出演された皆さん、それぞれ役作りが大変だっただろうなと感じます。

――綾野さんは今回、減量も行ったと伺いました。

綾野 削がれていくといいますか、魂の炎が消えていく情感みたいなものが、この作品の灯になったらいいなという想いがありました。

――作品という虚構のなかで実際の“質量の変化”を見せていくのですね。

綾野 今回は肉体的なアプローチから始めました。なぜなら肉体と精神は繋がっているからです。決められた撮影期間の中で、2~3年という時間を生きることは、演技だけではできません。実際に肉体崩壊させることで、役の精神や時間経過という虚構を、より本当という深淵まで落としていく。事実と虚構の共演みたいなものです。

 あくまで村上さんの姿を米倉さん、流星くん、作品をご覧になる方が観たときの反応のレンジを広げたかった。それだけです。

 あんな感じで村上が2人の前に現れたら「一体誰が被害者なのか、加害者なのか」といったものが、セリフにはなく人の情念に訴えかけていく。肉体的にも精神的にもコミットしていくのが、この作品にとって自分ができる最大のパフォーマンスなのではないかと考えました。

2022.01.13(木)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=佐藤郁江(米倉)、石邑麻由(綾野)
スタイリスト=野村昌司(米倉)、三田真一(KiKi inc./綾野)