動画配信サービスのNetflixは、今やインドア生活の相棒とも言える存在ですよね。古今東西の人気映画にアニメ、ドラマにバラエティ番組がたくさん観られる同コンテンツですが、その注目ポイントの一つに“Netflixオリジナル映画”があります。

 これは、豊富な資金を持つNetflixが出資者となり制作したオリジナル作品や、惜しくも劇場公開が見送られた作品をNetflixが買い付けたものなどを指します。多種多様な作品群から、今回は筆者がイチオシしたい傑作Netflixオリジナル映画を5作紹介します。

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無数の価値観が折り重なる現代を、無数の映像表現で描き出した傑作CGアニメ

◆『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021年)

 本作の映像を手がけたのは、米アカデミー賞を長編アニメーション部門で受賞した傑作『スパイダーマン:スパイダーバース』のチーム。プロデューサーには号泣映画と名高い『LEGO® ムービー』の監督であるフィル・ロードとクリス・ミラー、メガホンを取ったのはディズニーの大傑作アニメ『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』のマイケル・リアンダとジェフ・ロウです。

 映画好き以外の方に一言で言うなら「超凄腕のクリエイター大集合」というところでしょうか。

 そんなスタッフが繰り出す圧倒的な映像美とその密度は、開始数分で視聴者の脳をぶっ飛ばすほどのパワーに満ちています。というのも本作は、ベースとなる3DCGに2Dアニメーション、水彩画、手書き風のイラスト、さらには実写までが、キャラクターの心情やギャグシーンに合わせて縦横無尽に加わってくるのです。

 まさに、無数の映像表現がある現代を象徴するかのような奇抜な演出ですが、その演出の背景に「登場キャラクターとリンクしているから」という、ひとさじの理屈が乗っかっているのが好感度大です。

 というのも、本作の主人公であるティーンエイジャーの少女・ケイティが手描きイラストにアニメーション、実写撮影を駆使して唯一無二の映画を撮り、ネットに上げ続けているクリエイター志望のキャラクターだからです。

 劇中の映像たちは、まさにケイティの脳内を表現したようで、観客は彼女の目線を通して物語を体験するような感覚に陥るわけです。

 映像表現だけでも観る価値は十分なのに、本作はそのストーリーも見事。多様な価値観溢れる社会で折り合いをつけようともがく、等身大の「家族」の話として泣かされてしまうはずです。

 ちょっと世間から浮き気味なケイティ、彼女を心配するもついていけない父・リック、父と娘の気持ち双方を理解し悩む母・リンダ、ケイティの唯一の理解者とも言える弟・アーロン。ポップなキャラクターには観る者の共感を得るリアリティがしっかりと通っています。

 そんな愛すべきポンコツ家族が立ち向かうのは、突如人類に牙をむいた巨大企業のバーチャルアシスタント。技術のために倫理を置き去りにした人間たちへの皮肉めいた罰ともいえるこの設定は、現代社会を生きる我々への問いかけにもなっています。

 しかし、本作が真に素晴らしいのは、こうした解釈なんか知らなくても存分に楽しめるほどハチャメチャで、手に汗握って、感動できるエンタメに徹しているところであり、同時にこうした解釈について考えざるを得ないほどメッセージ性にも富んでいるところです。つまり、この二つが切り離せないほど完璧に混ざり合っているのです。まさに、「超凄腕のクリエイター大集合」が伊達じゃないところを、まざまざと見せつけられる傑作です。

◎あらすじ

『ミッチェル家とマシンの反乱』

空想大好きの映画少女・ケイティ。晴れて気心知れた仲間たちのいる映画学校に入学する直前だった彼女は、喧嘩しがちな父・リック主導で家族と気の乗らない車旅に連れ出される羽目に。しかし、時を同じくして世界を揺るがす大事件が起き、一家は期せずして世界を救うことに……!

2021.05.29(土)
文=TND幽介(A4studio)