止まらない欲望の果てに男が見た光景とは……地獄の一攫千金ハッタリ劇!

◆『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)

 実際の人生では絶対に味わいたくないような“絶体絶命の状況”を疑似体験できるのも、映画の醍醐味です。Netflixオリジナルのクライムサスペンス映画『アンカット・ダイヤモンド』はまさにそんな「マジで自分じゃなくてよかった……」と肝を冷やしてくれる傑作映画です。

 この作品は、辛口かつ確度の高い評価が集まる全米でも有数の批評サイト「ロッテン・トマト」で、驚異の91パーセントの批評家支持を獲得した映画。

 主演を務めたのは『アダルトボーイズ青春白書』などで知られる、アメリカでも屈指のコメディ俳優、アダム・サンドラーです。いつもはスクリーンでふざけ倒している彼が笑いを封印し、最高に暑苦しくギラギラした軽薄な宝石商役を怪演しており、本作全体をアクセル全開で引っ張っています。

 本作のストーリーは、ニューヨークで宝石取引をしている主人公・ハワードが、ギャンブル癖のせいで積み上がった借金返済のため、巨大なブラックオパールを餌に、顧客や借金取りたちの間を首の皮一枚ですり抜けようとハッタリを並べ立てるというもの。

 特段起死回生の策があるわけでもなく「大丈夫だから! 絶対なんとかなるから!」と爆発寸前の客たちを相手に、脂汗をかきながら電話をかけまくるハワードの様子は、地獄そのものです。しかし、そんな“地獄行脚”は観る者に不思議な高揚感をもたらしてくれるのです。

 例えるなら、空気が送り込まれ続ける巨大風船がいつ爆発するのか見守る時のような、危険なのに目が離せなくなる感じといえば伝わるでしょうか。そんな緊迫感を絶妙に持続させているのが、本作の編集テクニック。電話片手に暴言をまくし立てる口八丁なハワードをキビキビしたカットで見せていくことで、クライマックスに向けてのボルテージを高めてくれています。

 息が詰まるような展開の連続である本作に不思議な清涼感と落ち着き、トリップ感を与えているのが、実験的な電子音楽で人気を博すミュージシャン、ダニエル・ロパティンの音楽です。

 80年代風のゆったりと宇宙を飛ぶようなピコピコとした旋律は、一見すると話とミスマッチなのですが、土壇場でも「なんとかなるだろ」と思い続けるハワードの能天気な狂気を表しているようで、不思議とマッチするのです。

 実際、ロパティンは音楽ブログのインタビューで、“日本のレトロゲームなどでよく見られる、不釣り合いな映像と音のマッチングが好き”という趣旨の発言をしているので、意図的な作曲なのかもしれませんね!

 必見なのが、本作のクライマックス。そこに至るまでも「もうやめとけって!」と叫びたくなる行動ばかり取るハワードですが、終盤で選択する行動はそれまでの比ではありません。「ど、どうかしているよこいつ……」と言いたくなるほどに人を振り回すハワードが辿り着く衝撃のラストは、ぜひご自分の目で確かめてください。

◎あらすじ

『アンカット・ダイヤモンド』

ギャンブルで膨れ上がった借金に追われるニューヨークの宝石商・ハワード。義兄弟のアルノから借金返済のため狙われ続ける彼は、ある日、超高額のブラックオパールを仕入れたことで一攫千金の光明を見出すのだが……。

2021.05.29(土)
文=TND幽介(A4studio)