女性の権利がほとんどなかった時代を駆け回る、おてんば少女探偵の大冒険!
◆『エノーラ・ホームズの事件簿』(2020年)
同じように見えても、世界はその人が置かれている立場や特権でガラリと変わるものです。
2020年に公開された本作は、人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』で一躍全米ティーンのカリスマとなった女優ミリー・ボビー・ブラウンの魅力がたっぷり詰まったアイドル映画であると同時に、そんな社会への目線を思い出させてくれる作品です。
この作品は、アメリカの小説家ナンシー・スプリンガーの人気児童文学シリーズの第一作目『エノーラ・ホームズの事件簿 - 消えた公爵家の子息』の映画化作品です。
“ホームズ”という名前にピンときた人もいるかもしれませんが、本作の主人公エノーラは、世界的人気小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの主人公、名探偵シャーロックの妹という設定なのです。
舞台は1884年のイギリス。名探偵シャーロック・ホームズの16歳の妹・エノーラは、大好きな母ユードリアから読書や科学に武芸と、淑女とは程遠い自由な教育を受けて育っていました。しかし、そんな母がある日失踪。彼女は母を探すためまだ見ぬ社会に飛び出す決心を固める、というストーリーです。
劇中では聡明で活発なエノーラの魅力が炸裂し、彼女は母親探しのミステリーと道中出会った美少年の侯爵・テュークスベリーに降りかかる陰謀に果敢に挑んでいきます。
しかし、本作で彼女が真に立ち向かうのは、女性への参政権など確立すらされていなかった、貴族社会真っ只中な19世紀末のイギリスそのものなのです。
エノーラは、母の失踪を受けて実家に帰ってきた2人の兄、特に長兄のマイクロフトから、「淑女」になるための寄宿学校へ入れられそうになります。
このように、物語の節々で当時の女性が強いられてきた男性目線の「女性らしさ」との衝突が描かれ、物語が進むと「女性の参政権の実現」を目指した、実在の女性による運動組織“サフラジェット”の存在が大きく物語に関わってきます。
本作は、ティーンエイジャーの女の子に向けた冒険映画であると同時に、観客が共感できる等身大の女の子を主人公に、過去から現在まで戦い続けてきた女性の強さを振り返る学びが詰まった、非常にクレバーな作品ともいえるでしょう。
◎あらすじ
『エノーラ・ホームズの事件簿』
文武両道、時代にそぐわない自由な教育を受けてきた16歳の少女・エノーラ。自分を育ててくれた母の行方を追うため、家出同然で社会に飛び出した彼女は、自身を追いかける兄の追っ手をかわしながら、次々と降りかかるミステリーに挑んでいく!
2021.05.29(土)
文=TND幽介(A4studio)