今や世界を席巻している韓国エンタメ界。昨年もドラマ「イカゲーム」がNetflix創設以来、最大のヒットを記録し、いまだそのブームは世界中で増大中です。一方、質の高いアート映画も絶好調。カンヌとオスカーを両制覇した『パラサイト 半地下の家族』の翌年には、『ミナリ』でユン・ヨジョンがオスカーの助演女優賞を受賞。

 なぜ、快進撃は止まらないのか。なぜ韓国エンタメは面白いのか!? そして今、韓国映画の底力を知るにはどんな作品から観るべき? 韓国エンタメ作品をこよなく愛する笠松 将さんに、特におすすめの5作品を選んでいただきました。

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韓国エンタメにハマり始めたきっかけは……

  僕が韓国映画やドラマにハマり出したのは、俳優業を志し、なかなかオーディションに受からなかった20代前半です。色んな監督さんから“いい映画がたくさんあるよ”と教えていただいて、観るようになったのがきっかけです。欧米の作品に比べて、同じアジア人として人間関係や感覚が似ていることもあり、勉強になるし、参考になるとも思って。それから意識的に観るようになり、観れば観るほどハマっていきました。

 当時は、テレビで昼間によく放映されていた韓国ドラマも観ていました。バイトに出かける前に観て、それから朝までバイト、みたいな生活で。「検事プリンセス」や、再放送されていた「コーヒープリンス1号店」も観ていましたね。トレンディドラマですが、うまくいっていなかった自分にとっては面白くて、ハマっていました。

――韓国映画が面白い理由は何だと思いますか?

 韓国映画はよく“芝居や撮り方が泥臭い”と言われますが、それは全く違うと僕は思います。もちろん、いい意味での“泥臭い”ですが、そんなことは全くなくて。むしろ、撮影の意味、照明の意味、音の使い方、それらに対する演技の意味を、全員が全員しっかり把握しているんです。例えば照明ひとつとっても、ただ光を当て単に照らしているのではなく、照明で演出している。撮影監督も画で演出している。すべての部署の全員が作品を演出している感覚がメチャクチャあって、それが伝わってくる。

 脚本を読んで、この画にしようと思ったのか、この画にしたいから脚本をそう書いたのか。この音楽を使いたいから、こういう芝居をしているのかと、考えてしまうくらい。すべての要素が、どこから始まっているのか分からないくらい、“総合芸術”としてのレベルが非常に高いのが、韓国映画の魅力だと思います。

 エンターテインメント産業は韓国において、“一大国策”。市場を国外に求め、“ちゃんと外貨を取りに行くぞ”という本気感が伝わってきます。アイドルから映画からドラマから、エンターテインメントに付随したものすべてが、そういう姿勢。それがスゴイな、と思います。

 日本映画は、ある意味キャスティングですべてが決まってしまう感じがありますが、韓国映画は、無名の俳優たちの作品でもかなり面白い。そこにも、基盤というか地力のスゴさを感じます。悔しいという思いもありますが、日本映画界に対して、圧倒的な個の力を発揮できていない自分を、申し訳なくも思います。盛り上げられるくらいの絶対的な個の力、自分が圧倒的な存在にならなければ、と感じています。

 参加してみたい監督さんは? と聞かれれば全員ですし、誰と共演してみたいとか、僕はあまり考えたことがないんです。ただメチャクチャ好きな俳優は、ハ・ジョンウとカン・ドンウォン。他にも素晴らしい人たちはたくさんいますが、ハ・ジョンウは飛びぬけてスゴイ、と思っています。もちろん、共演できたら嬉しいですが。

――ちなみに例の人気ドラマは観ましたか?

 実はまだ「イカゲーム」は未見ですが、もちろん「愛の不時着」も「梨泰院クラス」も観ています。やっぱり、圧倒的に面白かったですね。演技力もそうですが、衣装をはじめ、目に入るものすべてに気を配っているのを感じます。2本とも、“あり得ない”話だけど、とにかく面白い。

 僕らがエンタメを観る・読む・聞くときに、あまり“リアル”とか関係ないと思うんです。それよりも、突き抜けた面白さを求めている。でも今の日本は、“リアルかどうか”に、少しこだわり過ぎている気がして……。もっと突き抜けた、何がなんだか分からないけれど、とにかく面白いもの。面白いからリアルかどうかなんて細かなところはどうでも良い、それくらいの勢いがある作品に参加できたら幸せですね。

 それには、僕らはお芝居を研究しなければならないし、画が繋がっていなくてもOKが出るくらい圧倒的なお芝居ができなければならない。今は海外の作品をすぐに観られるし、どこからでも吸収できる時代。だから韓国は、各国から参考にされて、怖くもあるんじゃないかな。面白いものに人が集まるのは世界共通だと思うので、日本映画も可能性は同じようにある。それがすごく楽しみですね。

2022.01.22(土)
文=折田千鶴子
撮影=鈴木七絵
スタイリスト=徳永貴士(SOT)
ヘアメイク=SHUTARO(vitamins)