オタクに優しい完璧ギャルは殺人鬼でした! エモすぎるポップホラーの快作

◆『ザ・ベビーシッター』(2017年)

 思春期の男子にとって、ちょっと年上のセクシーなお姉さんは憧れの存在と言っても良いでしょう。本作、『ザ・ベビーシッター』は、そんなセクシーなお姉さんが、両親が留守の間に自分の面倒をみるベビーシッター役を買って出てくれるという、夢のような展開で幕を開けます。

 しかし、悲しいかな甘い話には裏があるもの。気がつけばとんでもない血みどろの展開に投げ出されてしまう、ぶっ飛び系スプラッターコメディです。

 スプラッター映画なので当然血も出るのですが、悲惨さやリアルさは控えめ。むしろ、そのハイテンションぶりはコントチックですらあり、全編に爆笑シーンがちりばめられています。

 また、あえて極彩色でケバケバしいピンクやオレンジを基調とした絵作りは、まるでアメリカのカラフルなキャンディーのような雰囲気で、非常におしゃれです。

 本作の主人公は、大人しい性格ゆえに学校や近所でイジメられている12歳の少年コール。留守がちな両親に代わり彼の面倒を見ているのが、近所に住むパーフェクトギャルのビーでした。

 そんなある日の晩、ビーとその友達がエッチな酒盛りに興じるのではと胸を躍らせて様子を覗いていたコールが目撃したのは、生贄の儀式に興じる彼女らの姿……そう、ビーはなんと悪魔崇拝者のヤバイ集団のリーダーだったのです!

 ここまで聞くとおバカな痛快ホラーコメディに思え、実際そうなのですが、悪役のビーを演じる女優サマラ・ウィービングが、本作に唯一無二のパワーをもたらしています。

 風になびく金髪に、いたずらっぽい碧眼、ツンととがった唇に抜群のスタイル。まさにアメリカン美女のイメージそのままのビーは中身も完璧。家事をそつなくこなし、コールの映画オタクトークにも全力で参加してくれるだけでなく、いじめっ子を追い払い、コールに強く生きる人生哲学まで授けてくれます。

 コールのみならず、観ている観客全員が好きになっちゃうほどサマラ演じるビーの魅力は抜群。だからこそ、彼女が危険な存在とわかった中盤は、なんとも言えない切ない気持ちになるはずです。しかし、そんな湿っぽさを追い払ってくれるのが、ビーの仲間である、4人組のアホっぷりです。

 エッチだけどおつむの足りないアリソン、いつも半裸のイケメンマッチョのマックス、ゴス趣味のアジア系美女ソーニャ、いつも不憫な目にあうおしゃべり黒人のジョン。危険な悪魔崇拝者たちなのですが、全員隙だらけで視聴者を笑わせてくれます。

 そして迎える終盤。ビーは、憧れの存在、唯一の親友、人生の師匠、想い人、そして凶悪な殺人鬼というジャンル分け不能な障壁として、コールの前に立ちふさがります。コールがビーに教わった心の強さを胸に、ビーその人に立ち向かう展開はエモさ全開です。

 2020年には続編である『ザ・ベビーシッター~キラークイーン~』も配信されているので、そちらも要チェックです。

◎あらすじ

『ザ・ベビーシッター』

いじめられっ子のコール少年の心の支えは、近所に住むセクシーなベビーシッターのビー。一緒に映画を見て、ダンスをし、いじめっ子に立ち向かう強さを教えてくれた彼女の正体は、なんと危険な悪魔崇拝者だった!?


 ――今回紹介した映画は、ジャンルは違えどどれも胸に残る傑作ばかり。窮屈なおうち時間のストレスを吹き飛ばしてくれるパワーに満ちているので、興味を持ったなら早速観てみてはいかがでしょう?

2021.05.29(土)
文=TND幽介(A4studio)