寂しさ、優しさ、迷いなど、深部の喜怒哀楽をナチュラルに表現する北村匠海さん。音楽、映画、ドラマ界において脚光を浴びる彼が“今いる場所”について語ってくれました。
CREA WEBでは、CREA2022年冬号に掲載中のインタビューの一部を公開します。
「昔、通っていたとあるお店に、行くたびに泣いていました」
9歳で芸能界入りし今年で24歳、キャリアは15年になる北村匠海さん。俳優として代表作はすでに数多、ボーカリストを務めるDISH//での音楽活動も軌道に乗っている。人生の半分以上の時間を、愛すべき現場で過ごしてきたわけだが、思い返せばいろいろあった。
「19から21歳くらいは、自分の中がぐちゃぐちゃだった時期でした。今よりも気持ちの両立ができていなかったし、目の前のことに対して、ずっと暗い気持ちで生きてきたというか。急に忙しくなったので、何も追いついていなかったのかなと思うんです」
当時、北村さんは興行収入35億円を超える大ヒットを記録した映画『君の膵臓をたべたい』に主演、第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数々の賞を受賞したタイミングだった。それまでも多くの作品に出演していたが、北村匠海という逸材を業界はますます放っておかなくなる。相次ぐオファーに濃密なスケジュール、やりがいと同時に目まぐるしく変わる環境下で、心が蝕まれていったのかもしれない。そんなときに支えとなったのは、とあるお店だった。
「わりと頻繁に通っていたかもしれません。そこには業界の人もいたし、他の職業の人たちもいて“ここに行けば誰かいるよね”という感じで。大学生みたいに“いぇーい!”という飲み方ではなく、家族みたいにゆっくりしゃべって、笑って、歌って、みたいな。実はそこに行くと毎回のように泣いていたんです」
誰かの歌う曲を聴いては泣き、自分も歌っては泣いた夜。はらはらとこぼれ落ちる涙や、その時間と人との触れ合いがデトックスとなり、北村さんの日常と心を守っていった。
「みんな、鬱屈としていたというか、傷をなめ合うかのように寄り添っていたのかもしれないですね。ティッシュを回して、涙を拭いたりして(笑)。そういう時間は、言ってしまえば日常の大半を占めている場所からは、ちょっと外れた時間というか。ワイワイしているわけではなくて、もっと芯の深いところで皆でわかり合う、みたいな感じだった。あれは、ある意味青春だったなと思います」
2021.12.08(水)
Text=Kyoko Akayama
Photographs=Tomoki Kuwajima
Styling=Shinya Tokita
Hair & make-up=Asako Satori