深夜の放送にも関わらず、毎週Twitterでトレンド入りする「チェリまほ」をご存知でしょうか。「チェリまほ」とは通称で、正式には「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」という、テレビ東京の木ドラ25枠のドラマです。国内人気だけに留まらず、タイや韓国など諸外国でもSNSでトレンド入りするほどの注目を集めています。
まずざっくりとあらすじをご紹介しておきます。
ネガティブ思考の冴えないサラリーマンの安達清(赤楚衛二)は、童貞のまま30歳を迎えたことで都市伝説として囁かれていた「魔法」を手に入れてしまいます。それも「触れた人の心が読める」という地味な能力でした。ある時、同期で仕事ができる爽やかイケメンの黒沢優一(町田啓太)の心の声を偶然聞いてしまうのですが、なんとそれは安達への恋心で……。
というところから物語は動き出します。安達は同性からの恋愛感情に戸惑いつつも、2人は徐々に距離を縮めていくのです。
対等な2人のラブストーリーが心地いい
コンプレックスが強く自己評価が低い主人公が、誰しもが憧れるヒーローと恋に落ち成長していくという構図はラブコメの一種の型で、今までも数多くの作品が存在してきました。
しかしそれは異性愛の範疇で描かれてきたこと。だからといって本作が異性愛のラブストーリーの焼き直しかと言われると、まったくそうではないところもポイントです。これは男女をただ男性同士に置き換えただけではない、現代社会のあるべき姿が反映されたラブストーリーなんです!
従来の男女のラブストーリーではどうしても2人の関係性をはっきり見せるために「守る側」と「守られる側」の力関係を分かりやすく描いたり、古典的な「男らしさ」や「女らしさ」を強調することが多くありました。
しかし本作は「男らしさ」や恋愛における支配関係を誇示することなく、男性の「繊細な」一面が描かれているところが観ていて心地いいんです。安達も黒沢も優しく誠実な人柄で関係性が対等であること、ステレオタイプな性別役割にとらわれていないというところも、ラブストーリーを作る上で素晴らしい配慮です。
改めて言いますが「チェリまほ」はBL漫画が原作です。「BL」と聞くと一部の人のための閉ざされた作品ジャンルのように思われがちですが、実は今、幅広い層にひらけた実写化向きの作品が増えつつあります。
そもそも「恋愛ドラマ=異性愛」であることが当たり前という考え自体が間違い。本作も「BL」という物珍しさ以上に、登場人物の心理描写や、人と人が恋愛する上での理想的な関係性を丁寧に描いている点こそが注目されているのだと思います。このように今のBLドラマは決して閉ざされたものではなく、誰もが恋愛作品のひとつとして「ふつう」に楽しむべきものに進化しています。
2020.12.11(金)
文=綿貫大介