夢溢れる1984年の夏!! 狂気の殺人鬼を追った少年たちが見た現実とは……
◆『サマー・オブ・84』(2018年/Prime Video・Netflix)
夏といえば、血も凍るホラー観賞が楽しみの一つですよね。今回は数あるホラーの中から「懐かしい夏休み」、「ジュブナイルもの」、「ホラー」が見事に融合し“お得なサマーパック”とでもいうべき傑作映画をご紹介しましょう。
本作、『サマー・オブ・84』で監督を務めたのは、フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセルら3人のメンバーで構成された、カナダの映像制作ユニット「ROADKILL SUPERSTARS(RKSS)」です。主役の一人を演じるのは、今大注目の若手俳優である20歳のジュダ・ルイス。
物語は1984年の夏、アメリカの田舎町で繰り広げられます。オカルト趣味の少年・デイビーは、近隣の町で多発している少年少女を狙った連続殺人事件と、向かいの家に住む優しい警察官マッキーとの間に、奇妙な符合を見出してしまいます。デイビーとその仲間らの中に芽生えた小さな疑念はやがて義憤と好奇心が入り混じり、身も凍るひと夏の体験に繋がってゆくのでした。
先に紹介した『オハナ』やその発想元の『グーニーズ』のように、この作品は80年代に隆盛を極めたジュブナイル映画と、同時期に爆発的なヒットを見せていた「スラッシャー映画(殺人鬼などをモチーフにしたホラー映画)」を融合させた一作です。
少年たちが恐ろしい殺人鬼の影を追いかけていくさまを、スリリングかつ時にキュートに描き出していきます。危険な遊びを通して親睦を深め、“忘れられぬ思い出を紡ぎ出してゆく”様子は、名作青春映画『スタンド・バイ・ミー』に通じる部分も。
本作は、80年代を感じさせる美術セットと同時にその音楽も印象的。“シンセウェイブ”と呼ばれる、80年代カルチャーの電子音楽やビジュアルイメージを融合させた新たな音楽ジャンルを採用しているのですが、懐かしさと新しさを同時に感じさせる奇妙な旋律は、観る者に心地良いトリップ感と疾走感を与えてくれます。
ポップでノスタルジックなビジュアルと演出は、80年代映画の“楽観主義”を視聴者に抵抗感なく植えつけてくるので、観ているうちに「どんなインパクトのある殺人鬼なのかなぁ~」、「犯人を追い詰めるのはどのメンバーなんだろう」など、ある種の安心感を覚えてしまいます。ですが、それこそが本作最大の“罠”。
物語が迎える恐ろしいラストは、この物語が「夢が見られなくなりつつある現代」に作られたことをハッと思い起こさせてくれます。映画好きであれば、80年代の皮を被った70年代映画、といえばピンとくるでしょうか。一味変わった恐怖を味わいたい方にオススメの怪作です。
◎あらすじ
『サマー・オブ・84』(2018年/Prime Video・Netflix)
1984年の夏。アメリカ、オレゴン州の田舎町イプスウィッチに住む15歳のデイビーは、オカルト事件などに目がない好奇心旺盛な少年だった。彼は遊び仲間であるイーツ、ウッディ、ファラディらと楽しくもどこか退屈な夏を過ごす中で、最近多発している子供を狙った連続殺人事件の犯人が、向かいの家に住む人当たりの良い警察官のマッキーなのではないかと疑い始めるのだが……。
――外に繰り出すばかりが夏を満喫する方法ではありません。ステイホームが続く夏のあいだは、お家で千差万別な“夏の思い出”の詰まった傑作映画たちをじっくりと鑑賞してみるのも悪くないのではないでしょうか。
2021.08.21(土)
文=TND幽介(A4studio)