いよいよ夏も本番、外に出かけるのもいいけれど、のんびりお家でぐーたら横になって過ごすのもいいですよね。そんな気分にぴったりの漫画を6冊、これまでの「週末、何しよう?」からピックアップしました。お休みのおともにどうぞ。


①バディ好きにはたまらない、上質な洋画のような作品『LIMBO THE KING』

 2086年のアメリカが舞台のSFアクション。と言うと少しとっつきづらく感じる人もいるかもしれない。

 でも、このスタイリッシュな描線からなる表紙に映る、ふたりの男を見ればわかるように、実際は上質なフランス映画を彷彿とさせる、美しきバディ漫画なのです。1巻から6巻の表紙を見てください。はじめは他所他所しい雰囲気のふたりが最後の6巻では口喧嘩をしています。バディ好きなら、これだけでわかるでしょ?

 しかも作者は「地上はポケットの中の庭」「千年万年りんごの子」の田中相。しっかりと収斂されたストーリー背景から作品世界の強度が抜群な上、その中では心をざわつかせる人間模様がしっかりと描かれています。

 奇しくもこの作品の主人公ふたりが立ち向かう相手は「眠り病」と呼ばれる新型の感染症。未曾有の状態に直面した時の人びとの心理や、人間存在そのものへの問い。今の私たちにも重なりあう必読の作品です。

『LIMBO THE KING』

田中相 著

②とってもかわいい「バクちゃん」が主人公のディアスポラ漫画

 主人公の「バクちゃん」(これが名前)はバク星出身の男の子。本来は夢に溢れた星だったバク星ですが、今では花も土も夢を見なくなってしまい、バクたちにとって大切な「夢」が枯渇してしまっています。

 そんな事情から「バクちゃん」は永住の地を求め地球へ、日本の東京へやってくることになりました。

 とってもかわいくて健気なバクちゃんは慣れない環境に戸惑いながらも、やさしい人、きびしい人、いろいろな人と出会いながら安らげる場所を探しています。そう、これは故郷を追われたディアスポラの物語、決して遠い世界のお話ではないのです。

「すこし・ふしぎ」と「すこし・リアル」が補強し合ったような物語。作者の増村十七さんは『バクちゃん』の雰囲気をそう語ります。確かに、ちょっとバクちゃんがかわいらしすぎるものの、これは居場所を探している私たちそのもののよう。はじめての景色、はじめての人、はじめての文化に出会い、時にシビアな局面にハッとしたり、ちょっとしたやさしさに触れてホッコリしたり。バクちゃんの生きる姿はいつも一生懸命で、見守りたくなります。

 2020年6月現在、日本に住んでいる外国人は288万人。みんながバクちゃんと同じように自分の居場所を探しているかもしれないし、いろいろな経験を経て見つけているかもしれない。そして、私たちも大なり小なり毎日の日々の中で必死に“自分”の居場所を探しているはずです。

『バクちゃん』はそんな精一杯な人たちを繋ぐ紐帯となるやさしい漫画。この本を読めば、きっと自分にも、周りにもやさしさのかけらを振りまくことができるはずですよ。

『バクちゃん』

増村十七著
ビームコミックス 814円

③地方出身者は読むべき『スキップとローファー』

 こちらもどうにも応援したくなる高校1年生岩倉美津未(みつみ)が主人公。

 石川県の過疎地育ちから高校入学を機に上京した彼女は、まさに天然。勉強はできるけどちょっとズレてる「みつみちゃん」もバクちゃんと同じように、東京や都会の高校生の中にポチャンと飛び込み、いろんな波紋を起こしていきます。「不協和音スレスレのスクールライフ・コメディ」とはよく言ったもの。みつみだけでなく、クラスメイトもそれぞれが個性的で、一人ひとりとの交流もクッキリと鮮やかに描かれています。胸が痛くなるような、微笑ましくなるような、思わず頷いてしまうような……。青春時代を思い出して思わず目頭が熱くなってしまいます。

 思えば、僕も大学入学で上京し、東京という分厚い壁にぶち当たった一人。みつみは初めてのカラオケで恥ずかしい思いをしますが、僕もバーミヤンが分からず(入学直後サークルの先輩に「バーミヤン行くぞ」と言われ「バーミヤンって何屋何ですか?」と聞いたら「バーミヤンはバーミヤンだよ」と言われた事件)、泣きながら家に帰ったことが思い出されます。あの時村重さんがいてくれたら……。

 みつみが起こす波紋は徐々に広がって、そして美しい水面へと馴染んでいく。そんな爽やかな青春群像物語。この輪の中に入りたい! って思うこと間違いなしです。

『スキップとローファー』

高松美咲著
アフタヌーンKC 726円

2021.07.24(土)
文=CREA編集部