南国の島で水の滴る美女たちと超豪華フェスのはずが……驚愕のドキュメンタリー
◆『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』(2019年／Netflix)
夏を感じる作品はなにもフィクションの中だけではありません。現実の出来事を切り取ったドキュメンタリー作品にもまた違った趣があり楽しいものです。この作品は“最高の夏フェスを作ろうとしたら最低の夏フェスになった実際の事件”を追いかけたもので、その内容は想像を絶する混沌に満ちています……。
メガホンを取ったのは、センセーショナルなドキュメンタリー作品をこれまでにいくつも手がけてきたドキュメンタリー作家のクリス・スミス。
本作は、彼が2017年に実際に発生した「ファイア・フェスティバル」を取り巻く一連の事件を、当時の運営関係者や現地スタッフ、そして運悪くこのフェスに参加してしまった人たちの証言をもとに調査・構成しています。
青く輝くカリブの海原にバハマの孤島の白い砂浜。そこで楽しそうに日差しを浴びて海を泳ぐ絶世の美女たち。Fyre Media IncのCEOだった実業家のビリー・マクファーレンと世界的大スターであるラッパーのジャ・ジールは、そんな最高の環境で日常を忘れる大規模音楽フェスの開催を計画。
プロモビデオに映る夢のひとときを夢想した人々によって高額な予約チケットは瞬く間に完売しますが、開催6ヶ月前の時点でプロジェクトの内情は白紙同然で……。というのが本作のあらすじです。
ファイアとは、有名人をイベントなどに呼ぶ際にその予約することができる、ビリーが立ち上げようとしていたアプリ。このファイア・フェスは、そのアプリの宣伝のために企画されたイベントで、一般観客を会場に宿泊させて連日盛り上がるという趣旨のものでした。
退屈な日常から逸脱したまさに夢のイベント。本作序盤で描かれるプロモビデオ制作過程は“アメリカン・ドリーム”を幻視してしまうかのごとく絢爛です。
ですが、劇中でビリーが「負け犬たちに夢を売るんだ」、「中産層の普通の人たちにね」と意気揚々とうそぶいたように、そこで垣間見えるビリーやジャ・ジールらのディレクションは軽薄かつ行き当たりばったり、なにより無計画そのものです。
そして、彼らの尻拭いのために奔走するスタッフや演出家たちの苦悩は、観る者に言い知れぬ不安と破滅的な高揚感を植えつけていきます。
二転する開催地、手付かずのインフラ整備、宣伝とはかけ離れた宿泊施設。次々と噴出する問題が爆発する開催当日の記録映像はまさに阿鼻叫喚。地獄のような島に取り残され、泊まる場所もトイレもなく、ストレスMAXで喧嘩やマットレスの略奪を繰り返す観客たちと、それを呆然と見つめる運営の様子には背筋が寒くなるはずです。
このとんでもない大失敗を起こしてしまったビリーら経営陣がどんな顛末を迎えたのかは、ぜひご自分の目で確かめてみてください。
◎あらすじ
『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』(2019年／Netflix)
2017年．ケンダル・ジェンナーやベラ・ハディッドら、ミレニアル世代やZ世代を惹きつけるインルフエンサーが次々と宣伝した豪華絢爛な音楽フェス「ファイア・フェスティバル」。バハマの孤島を買い取って行われるはずだったそのイベントは夢に終わる。参加者から大金を騙し取り、大パニックを引き起こした実業家ビリー・マクファーレンとは何者だったのか。全米を騒然とさせた大規模訴訟事件の裏側に迫った傑作ドキュメンタリー。
2021.08.21(土)
文＝TND幽介(A4studio)
