慣習を重んじる田舎にしぶしぶ帰省した凸凹兄弟に降りかかる、ドタバタお葬式コメディ!!
◆『ブラザー』(2017年/Netflix)
最後に紹介するのは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで傑作を生み出し続ける韓国映画界からの一本です。韓国映画というと、血なまぐさい裏社会を描いたものが多い印象ですが、実はコメディ映画もかなり豊富で良作がたくさん揃っているんです!
主演は、あのマーベル映画へ出演した新作『エターナルズ』の公開も控える、世界中で引っ張りだこの強面俳優マ・ドンソク。屈強すぎるガタイと面構えながら、そのギャップ萌えまで演じきる振り幅が魅力の俳優ですが、本作では金策に奔走する実家嫌いの塾講師を好演して観客を笑わせてくれています。共演は、映画ファンから抜群の評価を獲得した2020年の爆笑韓国コメディ映画『エクストリーム・ジョブ』で活躍した塩顔イケメン俳優、イ・ドンフィです。
塾講師をするかたわら、借金までして財宝発掘に投資を続けるイ・ソクポン。そして彼の弟であり、建設会社でチーム長をしているものの、プレゼンで後輩に美味しいところを持って行かれ立場が危うくなっているイ・ジュボン。二人は、韓国の田舎である安東地方の名家の出。そんな実家の父が急逝してしまったとの報を受け、二人はしぶしぶ帰省するのですが、その道中で謎の美女ロラを撥ねてしまい……。というのがあらすじ。
日本映画界の巨匠であった故・伊丹十三監督のデビュー作である『お葬式』(1984年)の韓国版とも言える雰囲気の本作。実は2013年に東京でも公演が開かれた韓国の人気コメディミュージカル『兄弟は勇敢だった?!』を原作とする作品。ソクポンのお宝騒動、ジュボンの建設プロジェクト騒動、実家のお葬式騒動、さらには謎の美女ロラの秘密をめぐる騒動と、ドタバタ要素をこれでもかと詰め込んでおり、矢継ぎ早に繰り出されるギャグ展開は息つく暇もありません。しかし、それらの展開がスムーズかつパワフルに収束していく後半は必見です。
筆者が心惹かれたのは、韓国の田舎に根付く家柄文化です。劇中はかなり誇張されているとはいえ、血筋や伝統を異常なまでに重んじる主人公の親族の姿勢は、地方出身者には身近なテーマとして迫ってくるものがあるのではないでしょうか。また、親族のそんな姿勢に対して、なぜ主人公のソクポンが反抗心をむき出しにしているのかが明らかになる展開は、田舎の男性優位社会が女性に強いている問題点すらスムーズに描き出してみせています。
ギュウギュウに詰め込まれた見所ラッシュは、観ている途中で「うまく収束するのか」と不安になるほどなのですが、終盤には“バラバラだった家族の絆がもう一度見えてくる”という、多くの人の心に抵抗なく入り込む物語の縦軸が見事に浮き彫りになるんです。筆者は不意を突かれて泣かされてしまいました。大笑いしたあと、ふと遠く離れた故郷と家族のことを思い出させてくれる良作です。
◎あらすじ
『ブラザー』(2017年/Netflix)
塾講師をしつつ、借金までして財宝発掘に執念を燃やす中年男のイ・ソクポン。そして彼の弟であり、務める建設会社で危うい立場に置かれてしまったイ・ジュボン。逆転の糸口を探して困窮する二人の元に、疎遠になっていた父が急逝したとの連絡が入る。だが、しぶしぶ帰省した二人には、伝統を重んじる親族、道中轢いてしまった記憶喪失の美女ロラなど、予期せぬトラブルが相次いで降り注ぎ……。
――コメディ映画というのは、ラブストーリーや人間ドラマなど、他ジャンルの形を借りる、もといそれらを素材に調理することで成り立つジャンルとも言えます。これは言い換えればあらゆるジャンルがコメディになりうるということ。今年の夏は、そんな変幻自在の面白さが広がるコメディの世界で心を潤してみるのもいいかもしれませんよ!
2021.08.12(木)
文=TND幽介(A4studio)