ラブコメ嫌いの女性がラブコメの世界に!? フィクションの力を教えてくれる快作!!
◆『ロマンティックじゃない?』(2019年/Netflix)
コメディのなかでもとりわけ人気ジャンルと言えばラブコメディですよね。恋に奥手だったり、今一歩自分をさらけ出せなかったりする主人公が、幾多の困難の末に胸のすくような素敵な恋を手にするようなラブコメディは、古今東西、長らく愛されてきました。本作は、そんなラブコメのジャンルをメタ的に捉え直した殊勝な出来の一作です。
本作の主演を務めるのは、恰幅の良いフォルムとチャーミングな笑顔が弾ける女優、レベル・ウィルソン。オーストラリアはシドニーの即興コメディ劇団で笑いの腕を磨き、2007年にハリウッドに進出。『ピッチ・パーフェクト』シリーズで、先に紹介した『ゲームオーバー!』のアダム・ディバインとともにブレイクした、いま乗りに乗っている女優です。本作では観る者をあっという間に虜にしてしまう魅力的な主人公を熱演しています。
本作の主人公・ナタリーは、幼少期にラブコメディの傑作『プリティ・ウーマン』に憧れ、恵まれない環境から王子様のような大富豪に見初められるような甘いストーリーに胸をときめかせるのですが……。そんな少女ナタリーに母が言い放った台詞は「あんなのはただの映画」、「私たちのような女には縁がない」という残酷なものでした。
大人になり、すっかりアンチ・ラブコメに育っていたナタリーは、ある日頭を強打し昏倒。目を覚ますと、そこは華やかで甘いマスクのイケメンだらけな、“ラブコメ映画の中”だったのです。――というのがあらすじ。
PG-13の中高生向けラブコメ映画の世界に、アンチ・ラブコメの干物系ぽっちゃり女子が入り込んでしまう――というそのストーリーだけですでにかなりの輝きを放っている本作。紛れ込んだピカピカ・カラフル・オシャレすぎる世界にいちいち突っ込んでは「おえー!」っと拒否感をあらわにするナタリーの様子はとても愉快で、観ていて飽きません。
また、何もないところでつまずいてイケメンに支えてもらう――なぜか自宅にナタリーの趣味嗜好に理解の深い無職のゲイの友達がいる――など、“ラブコメあるある”を皮肉りまくるギャグシーンは、こうした映画に慣れている人ほど爆笑してしまうはず。
この作品、ナタリーがFワードで毒づこうとすると車のクラクションなどが鳴り響き、言わせてもらえなかったり、セックスシーンになると次の日の朝になってヤらせてもらえなかったりなど、かなりメタ的な笑いがあるのも特徴的。ラブコメ嫌いの主人公がこの世界でラブストーリーに身を投じていく動機も、「物語の展開に沿えば現実世界に帰れるはず」と思っているからこそであるなど、その自然かつ巧みな構成力には脱帽させられます。
本作の“メタ的視点”は、クライマックスにもう一段階驚くべき変化を遂げるのですが、その詳細は伏せておきましょう。
「私たちはいつもあなたたちに寄り添っているから、もう一歩フィクションで描かれるポジティブなパワーを人生に取り入れてみてもいいんじゃない? それで人生が変わったら“ロマンティックじゃない?”」
フィクション側が観客にそう問いかけるラストは、毒親問題、ルッキズム、マンスプレイニングなど生きる上でぶつかる幾多の困難でくじけそうになる私たちへの頼もしい応援歌にもなっています。
◎あらすじ
『ロマンティックじゃない?』(2019年/Netflix)
胸ときめくラブコメ映画に憧れていた少女ナタリーは、母に言われた夢の冷める言葉がきっかけで、25年後にはすっかりラブコメを嫌悪する卑屈な性格の大人になってしまっていた。ある日、地下鉄で強盗に遭って頭を鉄柱に強打したナタリーが目を覚ますと、いつものニューヨークはどこか華やかで浮かれた雰囲気……そう、彼女はなんとラブコメの世界に入ってしまったのだ!
2021.08.12(木)
文=TND幽介(A4studio)