マンネリ破局寸前のカップルが巻き込まれた、予期せぬ殺人事件と陰謀の正体とは!?

◆『ラブバード』(2020年/Netflix)

 Netflixで配信中のコメディ映画『ラブバード』は、ラブストーリーとサスペンスのジャンルをコメディに変換した“お得な一作”。軽妙かつどこか上品な笑いのセンスが光るおしゃれな作風も印象的な作品です。

 主人公コンビの一翼を担うのは、スタンダップコメディアンから成り上がったパキスタン系俳優、クメイル・ナンジアニ。彼は、2018年の『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』というコメディドラマ映画で、本作の監督マイケル・シュウォーターとタッグを組み、その年のアカデミー脚本賞にノミネートされた過去を持っています。本作は、そんな黄金コンビが復活した作品でもあるわけです。

 燃え上がるような出会いから交際をスタートさせたジブランとレイラニのカップル。しかしそんな恋の炎も交際4年目になると風前の灯。頻発するすれ違い……それ自体は些細なものだからこそ、自分たちの相性が良くないことを思い知らされるばかり。

 そして、何気ないドライブの最中に二人は別れを決意……した、まさにその瞬間、車に男が衝突! 直後、駆けつけた刑事と名乗る男が二人の車に乗り込み、追突して負傷した男を轢き殺し逃亡してしまいます。あまりの事態に呆然としていた二人は、なんと通行人によって殺人犯として通報されてしまい……。というのが本作のあらすじ。

 ニューヨークに住む洒脱なカップルの別れ話系コメディかと思っていた矢先のサスペンス展開は、視聴者の心を物語にグッと惹きつけるパワーを持っています。パニックになった二人は、思わずその場から逃げ出してしまうのですが、警官に説明しても身の潔白を証明できるはずがないと、無謀な真犯人探しを決意。ここから物語はドタバタサスペンスになだれ込んでいきます。

 この作品の巧みな点が「警察に真実を話しても、たぶん自分たちの身の潔白は証明できない」と主人公たちが決意する、本作でも一番「え、なんで?」となる部分。彼らの行動の動機として“レイシズム”を配置しているところです。つまり、黒人系の女性レイラニと、パキスタン系の男性ジブランは、白人優位社会では信用度が低いという問題を脚本に組み込んでいるわけです。

 そんな思いから独自調査を続ける二人に突きつけられる終盤の展開は、すごくポジティブかつ笑えるメッセージが込められているので必見です。

 また、全編に散りばめられているジブランとレイラニのマシンガントークには笑顔にさせられますし、二人の関係がどう変化していくのかも、本作のもう一つの見所。筆者的に痺れたポイントは主演二人の演技の塩梅です。

 アメリカンなユーモアたっぷりのコメディ演技の合間にフッと見せる、とても人間らしい照れた顔つき。これが挟まることで、すれ違いかけている恋人同士が、どこか照れ隠しをしているようなニュアンスが加わり、物語全体を一層チャーミングなものにまとめあげてくれています。

◎あらすじ

『ラブバード』(2020年/Netflix)

激しく愛し合っていたジブランとレイラニのカップルも、交際4年目にもなるとちょっとしたことで喧嘩ばかり。ある日のドライブ中に別れを決意したのもつかの間、二人の車に一人の男が追突! 続けざまに刑事を名乗る男が車に乱入し、はねた男を轢き殺してしまった。呆然とする二人は、通行人によって“殺人犯”として通報されてしまい……。

2021.08.12(木)
文=TND幽介(A4studio)