想像力を働かせて 生きている限り豊かでいたい
ふと気づいたが、高橋さんが生まれたのは赤坂。東京のど真ん中で育った正真正銘の都会っ子なのに、まるで緑豊かな田舎から上京した人が、大都会を嘆くみたいな口ぶりだ。
「けれど、赤坂御所のまわりも自然がいっぱいありますから。子どものころには狸を追っかけたりしていました。ただ、小学校へ行くとやっぱりいるわけです。髪をデップで固めたやつらが(笑)。そういう人たちと接するうちに、少しずつ自分も都会に毒されていく感覚はありました」
そんな自分に目覚めるきっかけになったのが、20代前半で久しぶりに山に登ったときのこと。
「夜の暗闇に恐怖を感じたり、大げさかもしれないけれど死んでしまうかもしれないと思ったり、そういうことに直面するわけです。テントの中にいても、外の音が気になりはじめて、『人間じゃないな。猪かな』などと考え出すとドキドキしてくる。そういう想像力が働く瞬間は、脳のシナプスが伸びている感覚があるんです」
もちろん、毒を毒と感じない人たちのことを否定しているわけではない。それはそれで幸せだと思う、とも。ただし、自分が毒になり得る要素だと思ったら、水と油のようにしっかりと毒に混ざらないように分離させないと、感覚が死んでしまう気がすると言う。
「そうやって山から帰って来たとしても、実際は何も変わらないんですけれど。結局、都会というものに取り込まれてしまうわけですから。ただ、人間が無力な存在であるということを確かめると同時に、想像力を働かせに行く行為は、自分にとても合っているんだと思います。
豊かでいたいんです。生きている限り。いつかは死ぬと、わかっていても」
2021.07.24(土)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Sai
Styling=Takanori Akiyama(fashion), Kiyomi Shiraogawa(interior)
Hair & Make-up=Mai Tanaka(MARVEE)
Cooperation=PROPS NOW, SCRAP PAGES, AWABEES