今は観葉植物に夢中です(笑)
昨年は井上ひさし作の音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』に出演した。最近、何かとシェイクスピアづいている。
「今回はフェイクですけれど(笑)。昨年の舞台もこの作品も、シェイクスピアの作品ではありませんが、言葉というものが強く出てくる作品だったので、そういった意味ではリンクしていると思いました」
約10年前にワークショップに参加した経験はあるものの、高橋さんが野田さんの作品に出演するのはこれが初めて。本作は、劇作家として50年近く言葉を扱ってきた野田さんが、SNSから現実世界にまでフェイクがはびこる今、言葉というものに正面から向き合って挑んだ作品だそう。
「俳優はそもそも言葉を持っていない存在なので、作家の方が紡いだ言葉をいざ自分がしゃべるとなると、『これは自分が言いたかったことかもしれない』と錯覚したりすることがあるんです。
今回の野田さんの台本を読んでいても、そういったことが要所要所に出てきている気がしました。仮に目の前にいる人が対立する相手だったとしても、相手が動いてこない限り自分は黙ってへらへらしていようと思っている感じなど、とても似ているなと感じました」
自分なりの哲学を持ち、体系化した心の内を力強い言葉で表現する高橋さん。言葉のプロである野田さんの作品と出合ったときの化学反応は、ぜひ劇場で確かめてほしい。ちなみに“言葉を持たない”俳優の高橋さんは、同じく言葉を持たない存在のことが、今、気になって仕方がないらしい。
「家で観葉植物を育てているんですが、今まで何度も殺しかけているんです。橘の木なんですけれど、春に白い綺麗な花が咲いて、ジャスミンのようないい匂いだったんです。それで調子に乗ってしまったんでしょうね。よかれと思って今までよりも日に当てたら、とたんに葉の色が黄緑になってしまって。
動物でもそうですけれど、言葉を持たないものたちとの対話はとても難しいということがよくわかりました。間違った想像力を働かせると、相手にとっては迷惑なことだったりするわけで。家に帰って顔を合わせるのも辛いです」
そう言いながら、「あいつ、多分今もポロポロと葉っぱを落としていますよ(笑)」と、まるで我が子を心配するように帰っていった高橋さん。自然との対話と想像力の修行は、これからもまだまだ続きそうだ。
舞台『フェイクスピア』
これまでにシェイクスピアの作品をモチーフとした数々の戯曲を手がけてきた野田秀樹さんが、改めて生の演劇の快楽や我々が生きる現代を挑戦的に描き出す新作舞台。作・演出:野田秀樹 出演:高橋一生、川平慈英、伊原剛志、前田敦子、白石加代子、野田秀樹、橋爪功ほか 大阪公演/新歌舞伎座 ~7月25日(日)まで。
2021.07.24(土)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Sai
Styling=Takanori Akiyama(fashion), Kiyomi Shiraogawa(interior)
Hair & Make-up=Mai Tanaka(MARVEE)
Cooperation=PROPS NOW, SCRAP PAGES, AWABEES