俳優は、言葉を持たない存在だと思う

 自然の中で高橋さんが研ぎ澄ませている想像力は、芝居ともリンクしている。自分ではない誰かの人生を演じる行為はもちろん、誰かが作った虚構の物語を鑑賞するという行為とも、密接に。

「僕、客席から鼻をすする音が聞こえるとほくそ笑むんです。芝居はごっこ遊びだと言う人もいるけれど、その人が泣いている事実は本当のことですから。説得力を持たせられたことに、胸がすく思いがするんです。一方で、人は芝居を観て理解できなかったと感じると、つまらなかったと否定する。それも、結局は想像力が足りないからなのではないかと思うんです。

 相手も人なんだと思えば、誰かが作ったものを簡単に否定はできないはず。他者は自分と同じ人間であると感じることができないから、ネットで炎上などが起きてしまうんだと思います。芝居だけでなくすべての事柄において想像力を働かせることができないと、人間は破綻してしまうのではないかと感じています」

 最新出演作は、野田秀樹さんが書き下ろした約1年半ぶりの新作舞台『フェイクスピア』。興味をそそられるタイトルだが、台本をもらうまでは、得意の想像力を働かせることはしなかった。

「ドラマや映画、舞台でも、台本をいただくまでイメージをしない癖がついているんです。ムダに想像したところで、一介の俳優が考えていること以上のものを提示されてしまいますから。シナプスはその部分には伸びていません」

 新しい作品に臨むとき、“課題”についても決めることはしない。

「課題決めをすると僕はだいたい見当違いをしてしまうので(笑)。それに、僕に声をかけていただいたということは、その時点で自分に足りないものがあるとも思っていないんです。

 そもそもお金をいただいている以上素人ではないですし、足りないものを求められているわけではない。成長したり勉強したいと思っているのであれば、そういう場所があるはずですから。25~26歳くらいのときから、そのことはしっかり自分の中で体系づけられています」

2021.07.24(土)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Sai
Styling=Takanori Akiyama(fashion), Kiyomi Shiraogawa(interior)
Hair & Make-up=Mai Tanaka(MARVEE)
Cooperation=PROPS NOW, SCRAP PAGES, AWABEES

CREA 2021年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

ちょっとだけアウトドア

CREA 2021年夏号

ちょっとだけアウトドア

特別定価900円

CREA6月発売号は「アウトドア」特集。ビルの間を移り行く空に道ばたに咲く草花、ベランダで感じる風――少しだけ感覚を拡げてみると、自然は案外私たちのすぐ近くにあることに気づきます。日常に落ちている、小さな自然の気配を拾い上げられたなら、窮屈に感じる日々も、少し楽しくなるかもしれません。ベランダで過ごす一日から、身軽なキャンプまで、アウトドア気分をちょっとだけ、お届けします。