倫理観を捨てた先に見える人間の本質。世界が絶賛したSFブラックコメディ

◆『リック・アンド・モーティ』(2013~2019年/Netflix)

 最後は、海外アニメのなかでも刺激的な描写が多いことでも知られる、大人気SFコメディ『リック・アンド・モーティ』です。海外アニメのおもしろさがこれでもかと詰まっている作品なのですが、詰め込みすぎて劇薬化している部分もあり、海外アニメに慣れてから観るのも手でしょう。

 こんなことを言うと観るのをためらわれるかもしれませんが、それはあくまで「お酒初心者がいきなりウイスキーを飲んだらキツイ」というのと同じこと。その美味しさを知ったら、もう他の作品では物足りなくなるでしょう。実際アメリカの人気レビューサイト「ロッテン・トマト」で94パーセントの観客が好評価をし、エミー賞にも輝きました。

 本作は名作SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のお下品パロディ短編を長編シリーズ化した作品で、天才的頭脳を持つアルコール依存気味の科学者・リックと、その孫モーティが毎回さまざまな異次元や宇宙で暴れまわるコメディです。

 本作でまず目を引くのはキャラクターでしょう。ステレオタイプな博士キャラの外見から、一見すると若者を導いていくのかと思われる主人公リックですが、実際には唯我独尊の極みといった性格の持ち主。

 そんなリックに振り回される頼りない孫のモーティも、回を重ねるごとに冷笑的になり、リックでさえドン引きさせる危険な一面を覗かせていきます。このように登場人物のさまざまな一面が見えてくるのも本作の魅力です。

 次に特筆すべきは物語の濃厚さ。基本的に毎回二つの事件が同時進行していくスタイルなのですが、そこには超早口で繰り広げられる社会風刺を練り込んだギャグ、倫理観無視の展開、シリーズを通しての伏線、ポップカルチャーパロディがギチギチに詰め込まれており、一度観ただけではネタ全てを拾いきれないほどです。

 そんなユーモアの根底に流れるのは「人間の弱さ」。誰にも邪魔されず生きようとする天才ゆえに逃れられぬ孤独に苛まれるリック、人の目を気にしつつもリックが反面教師で自分を出せないモーティ、両親への反発からリックに依存気味のモーティの姉サマー、夢を捨てきれない母のベス、臆病で現実から逃げ続ける父ジェリー。

 主要キャラそれぞれの切なさが、怒涛の展開の合間にふと顔を覗かせる演出には、脱帽です。

◎あらすじ

『リック・アンド・モーティ』

銀河随一の頭脳を持ち、多次元を行き来できる“ポータルガン”を持つ天才科学者リック。法を無視して自由に生きる彼に振り回されるのは孫の中学生モーティとその家族。リックは今日も世界をハチャメチャにしていく。


 ――日本アニメでは避けがちな、人間のダークな部分を巧みに戯画化する海外アニメたち。一味違う刺激的な作品を観てみれば、鬱屈した毎日もいつもよりポップに色づくかもしれませんよ!

2021.05.14(金)
文=TND幽介(A4studio)