過去と向き合う中年“馬”の悲喜劇は人生に疲れた心に寄り添ってくれる

◆『ボージャック・ホースマン』(2014~2020年/Netflix)

 日々紡がれる人生は常に輝き続けるものではなく、ほころび、ほつれながらもなんとか続いていくものですが、本作『ボージャック・ホースマン』は、そんな人生を振り返らせてくれる作品です。

 本作は、アメリカでコメディアンや作家などマルチに活躍するラファエル・ボブ=ワクスバーグが手がけた大人向けアニメ。アニー賞やエミー賞などのアニメ番組賞にノミネートされた過去を持っています。

 主人公のボージャック・ホースマンは元コメディアン俳優。いつも軽口とジョークを飛ばす二足歩行の中年男性の馬である彼が、自叙伝の出版をきっかけに過去と向き合う様子をコミカルに描き出しています。

 本作は、人間と獣人がさしたる説明もなく同居しているハリウッドが舞台で、ポップでダウナーな絵柄は、そんなシュールな世界観と相性抜群。また、獣人のキャラクターたちが繰り出す小粋な動物ジョークには「ふふっ」と笑ってしまいます。

 しかし、そんなポップさの裏にあるのは「人生に向き合う」という身近でシリアスなテーマ。過去の栄光にすがって変化に目を背け、自堕落な悪行を繰り返すボージャックには、笑わせられると同時に「こういうこと、多かれ少なかれ自分もしちゃうよなぁ……」と思わされます。

 自叙伝のゴーストライターとして出会ったダイアンや、ボージャックの家の居候・トッド、俳優仲間のピーナッツバター、エージェントのキャロラインといった脇役たちの成長を尻目に、アルコールやセックス依存、ドラッグとどん底に落ちていくボージャック。果たして彼が人生と向き合えるのかは、その目で確かめてみてください。

◎あらすじ

『ボージャック・ホースマン』

1990年代に名を馳せた俳優ボージャック・ホースマン。自叙伝執筆を先送りにし続ける彼の元に、出版社からライターのダイアン・ニューエンがゴーストライターとして送り込まれる。ボージャックは彼女に密着されながら過去を振り返っていくことになるのだが……。

2021.05.14(金)
文=TND幽介(A4studio)