70年代のアメリカ中流家庭が舞台 “ダーク版サザエさん”的コメディ

◆『FはFamilyのF』(2015~2020年/Netflix)

 現代を生きる我々にとって、進むべき道の参考になるのは「過去」ではないでしょうか。2015年から配信されているシリーズ『FはFamilyのF』は、まさにそんな思いを抱かせてくれる社会派ホームコメディです。

 原作はスタンダップコメディアンで俳優のビル・バーと、アメリカの国民的コメディアニメ『ザ・シンプソンズ』で数多くの脚本を手がけてきたマイケル・プライスです。まさに、会話ギャグのプロと家族ドラマのプロがタッグを組んだシリーズと言えます。

 舞台は1973年のアメリカ。中流家庭の中年男性フランク・マーフィーは、航空会社で働きながら、3人の子どもの父親としてのドタバタの絶えない日々を送っていきます。絵柄はザ・海外アニメという印象ですが、作品のテイストは『サザエさん』に近しい家族モノなので、見やすいでしょう。

 魅力は「毎日の他愛なさ」が描かれている点。背伸びして隣人よりでかいテレビを買ってご近所にアピールしようとしたり、子どもに「大嫌いだ!」と言われて一人寂しそうに天を仰いだりしているフランクの姿に笑わされ、またホロリとさせられます。

 そんな本作の真価は、原作のビル・バーが実際に幼少期を過ごした1970年代という時代設定にあります。家の中で堂々と喫煙するなど、劇中にはある種おおらかだった当時の空気が濃厚に漂っています。

 ですが、70年代は古き良きものばかりではありません。公民権運動を経たもののまだまだ残る黒人差別、冷笑を向けられる女性の社会進出、しつけと称して子供に手をあげる親、男らしさがステータスの価値観などが今よりずっと強烈だったのもまた事実。そんな世界でもがくフランク一家を通して、今を生きるヒントがもらえる作品です。

◎あらすじ

『FはFamilyのF』

1973年のアメリカ。中流家庭の大黒柱であるフランクは、勤勉な妻と反抗的な長男、いじめられっ子の次男、天真爛漫な長女らを養うため、今日もまた航空会社で汗を流し、隣人に見栄を張ってはビールをあおる……。

2021.05.14(金)
文=TND幽介(A4studio)