「左手にごはん」の気分でそばをすする
木板を使ったメニューには和紙に毛筆でそそるメニューがずらり。定番のだし巻き卵やそばがき、そばみそ、季節感のある小さなおつまみも並ぶ。お酒が飲めなくても楽しい、気の利いた品々だ。この日はちゃんとお小遣いを持っていたので、好きな物を食べることができて、ほっ!
基本のせいろはというと、細身でしなやか。ほのかに甘くて香りがいい。柏でいただいたそばも「おおっ」となるほど香りがよかったな、と思い出す。シンプルに楽しんだあと、あったかいのはどうするかなぁと悩んでいると、ご主人が「にしんそば、いかがですか?」とおっしゃる。正直、自分では選ぶことがないからほとんど食べたことがないし、にしんが佃煮みたいになって甘辛い煮汁がおだしにしみ出まくって、それがいいのか悪いのか……ううむ……という印象しかなかったにしんそば。半信半疑のまま、あえておっしゃるのだからと注文してみることにした。
登場したのは、かけそばと、その前に横たわるにしん。ええええええ! 別なのか! とのけぞるのは私だけ? 「こうするとだしに煮汁が混ざっちゃわないでしょう」とご主人。心の中を読まれていたかのようです。にしんはつやっつやに煮られていて、何日もかけて煮るというのに、煮崩れどころか傷もほとんどないくらい。大事に大事にされてここまできたのね、と声を掛けたくなる。そして、お味はというと佃煮なんてとんでもない! お煮付けです。とてもジューシーで、確かに甘辛いけど角がない。そのままパクパク食べることもできる。
私は左手にごはん茶碗を持って食事をするのが大好きだが、これだと左手に「かけそば」を持っていただけるのが最高! 白ごはんを汚したくないように、だしを汚さずに食べられる。でも、ポンとワンクッション置くから、結局少しずつだしの味が変わるのもまた楽しいのだ。クリアなうちに少しおだしを飲んでおいて、変化を楽しもう。
確かににしんそばの経験値は低いが、このにしんそばは「ああ、左手にかけそば持ってにしん食べたい……」とため息をつかせる一品。あのときにしんそばを勧めてくれたご主人に、そしてちゃんと持っていたお小遣いに感謝!
東白庵かりべ
住所 東京都新宿区若宮町11-7
電話番号 03-6317-0951
北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2013.03.29(金)