コンクリートのひび割れから生え出た雑草、肉厚の白い花弁を広げた泰山木、しっとりと露を含んだ朝顔、吹き寄せられた落ち葉、ぶっきらぼうな枯れ枝……。1993年のデビュー以来、須田悦弘は植物をモチーフとした、一見して本物と見紛うほどリアルな木彫作品を制作してきた。ただしそれらが仰々しく台座に飾られることはない。それどころか、展示ケースの中に入れられることさえ少なく(ケース内に入れられる場合でも、ことさら観客の視線を集めにくい場所をあえて選ぼうとする)、壁面や窓枠、床と壁の隙間から監視員の椅子の下(!)まで、特別ではない場所に、特別ではない形で作品を配し、作品だけでなく、「作品と周囲の空間との関係」を観客が能動的に発見することを、穏やかに促そうとする。

《芙蓉》2012年 作家蔵

 コイン駐車場に仮設した移動式の展示空間に始まって、ホワイトキューブの展示室に置かれた監視員の椅子の下や、かつて邸宅だった美術館内のポンプ室、現代建築のコンクリートの梁、創建から千年以上を経た古寺の列柱、瀬戸内の島の集落の碁会所、茶室にいたるまで、須田はこれまでさまざまな場を得ながら、その可能性を探ってきた。

《銀座雑草論》1993年 山梨県立美術館蔵

 今回の展覧会は、そんな須田の最初期の作品である《銀座雑草論》(1993)から、代表作《泰山木:花》(1999)、《睡蓮》(2002)、そしてこの展覧会のために作られた新作《芙蓉》(2012)に至る変遷を見ることができる。中には今展のためにバージョンアップされたものもあるので、古参の須田ファンは、発表時とどこが変わっているかチェックしつつ見るのも楽しいはずだ。

《泰山木:花》1999年 千葉市美術館蔵

 また美術館のエントランス・ホールは、昭和2年建造の洋風建築(旧川崎銀行千葉支店)を保存したものだが、このスペースのためにつくられた新作もホール各所に展示中。目を皿のようにして、オリエンテーリング状態で作品探しをしなければならないが(どうしても見つからない時は、監視員さんに訊いてみよう)、それは須田の展覧会を見る時の楽しみの1つだから、受けて立つしかない。

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2012.11.10(土)