写楽、北斎、歌麿、春信らの作品とも競演
もうひとつ、須田の作品を緩やかに規定してきたのは、古美術との関わりだ。大学時代から江戸時代中期の漆芸家、小川破笠の写しを作るなど、日本美術への関心は既にあった。そして古美術と並ぶに足る作品を作ろうとする志向は、作家と作品を容赦なく鍛える。須田自身が言うように、時の研磨を経て現在まで残った力ある美術品は「そうそう簡単に、一緒に置くことを許してはくれない」からだ。
現代の作家が抱く個人としての表現意欲とは対極的な、自分を超えるものへ身を捧げるようにしてつくられた無名の仏師、絵師たちの作品に、どうすれば近づくことができるのか。そしてまた、木彫という技法や植物のモチーフを参照するために、須田は今でも日課のように東京国立博物館へ通っている。最初から企図していたわけではないにせよ、浴びるように古典を見続けることで養われた眼が須田の技術を高め、まったく「古典的」ではないにもかかわらず、古美術の文脈に容易にはめこむことのできる作品を生んだ──とも言えるだろう。
《椿》2002年 作家蔵/無款《椿図屏風》江戸時代前期/個人蔵(千葉市美術館寄託)
そんなわけで、今回は7階展示室で「須田悦弘による江戸の美」展を同時開催。須田が千葉市美術館の所蔵品の中から選んだ写楽、北斎、歌麿、春信らの浮世絵や、長沢芦雪など江戸時代の絵画作品を展示しつつ、そこにも忍び込ませた須田作品と古美術との競演を楽しむことができるという、なんとも贅沢な展覧会だ。
須田悦弘展
会場 千葉市美術館
会期 10月30日(火)~12月16日(日)
休館日 11月5日(月)、12月3日(月)
開館時間 日~木曜日:10:00~18:00、金・土曜日:10:00~20:00(※入場受付は閉館の30分前まで)
料金 一般1000円
問い合わせ先 043-221-2311
同時開催 「須田悦弘による江戸の美」展
Column
橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」
古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2012.11.10(土)