vol.36 湯河原

 2019年4月1日という、日本人の誰もが記憶するだろうその日の夜に、湯河原「富士屋旅館」でご飯をいただいた。

 ここは老舗旅館を新たにリノベーションして始めた旅館である。

 元は、明治9年に始めた温泉旅館「聚芳園」で、藤木川に架かる橋を渡ると広い敷地に楼閣や別館が立ち並び、園内の花々が絶えることがなったと言われている。

 現存する建物の中でもっとも古い、大正12年に建てられた二階建ての楼閣風建築「旧館」は、檜による細身の建築で、客室の座敷飾り、縁側、廊下など外回りの建具に繊細な組子入り硝子戸を多用する、大正期の建築の特色をよく示している。 

 夕食はダイニングでいただく。

 お品書きの冒頭に“新元号「令和」、御目出度うございます”とある。

 ふふ。もうそれだけで気分が爽やかになった。

 料理は、地で採れた野菜や魚介、そして肉を、押し付けがましくなく、どこまでもさりげなく出してくれる。

 春を満喫した。

2019.07.07(日)
文・撮影=マッキー牧元