野を越え山を越え
マンデラの故郷・クヌ村へ!
この旅のハイライトは、東ケープ州のクヌ村。
マンデラはコサ族に属するテンブ人の首長の子として生まれ、この村で育った。自伝『自由への長い道』では、「幼少期で最も幸せな時期を過ごした場所」として回顧している。
海沿いの中核都市、イーストロンドンから北へ約200キロ。野を越え谷を越え、子豚が走り回る牧草地を越え、アロエベラが育つ山間の村を越え、走り続けて4時間はかかる。
地図で見たときはずいぶん遠いなあと思っていたけれど、南アフリカの原風景ともいえる景色を眺める、最高のドライブとなった。
長いドライブの途中、マンデラと同じコサ族のガイドが面白い話をしてくれた。
一帯は、1994年まではトランスカイというコサ族の自治区だった。国際的には国として認められていなかったものの、南アフリカ政府からは「独立国」として扱われていたから、ヨハネスブルグなど他都市に行くときは、パスポートが必要だったのだそう。
ようやくたどり着いたクヌ村。レジェンドとも言える偉人を輩出した村は、さぞかし観光地として賑わっているかと思いきや、拍子抜けするほどのどか。「ネルソン・マンデラ・ユース&ヘリテージセンター」という小さな博物館兼宿泊施設と、一軒のB&Bがあるぐらい。
マンデラの故郷を一目見ようと訪れる観光客はいるけれど、大きなホテルがあるわけでもないし、ましてや一番近い都市、イーストロンドンからはガイドを雇って車で来るしかない。
村のガイドに「ヨハネスブルグのソウェトのように、レストランや雑貨店を作る予定は?」と聞くと、答えはノー。
「ここには美しい風景と素朴な暮らしがある。ただお金をもうければいいわけではなく、バランスが大事」と、マンデラをアイコンに観光開発をするつもりはない様子。これはとても意外だったけれど、なんだかほっとする答えでもあった。
2018.10.30(火)
文・撮影=芹澤和美