英雄を輩出した村は
今も90年前と変わらない

 村には、ビルなんてひとつもない。ひたすら牧草地が広がり、そこで馬や羊がのんびりと草をはんでいる。マンデラが通った学校や、魚釣りに夢中になった川、駆け巡った緑の丘……。村が大々的に発展していなかったおかげで、私たちはマンデラがのびのびと過ごした幼少時代を想像しながら、歩くことができた。

 ランチは、マンデラの親戚が営むB&Bでいただくことに。スモーキーピンクの壁に三角屋根のカラフルな建物のなかに入ると、テントのように天井が高くて気持ちがいい。

 都会のレストランのような洗練されたものではないけれど、チキンにポークにラム、野菜の煮込み、ジンジャージュースなど、温かな家庭料理はとてもおいしかった。

 ひとしきりクヌ村散策を楽しんだ後は、ふたたび4時間かけてイーストロンドンへ。

 東海岸にあるこの街は、ヨハネスブルグのような大都会の緊張感もなく、ケープタウンほどの洗練されたリゾート感もなく、ほんわかとした雰囲気。南アフリカというとサファリのイメージが強いかもしれないが、こんな海辺の街もある。

 イーストロンドンを一言でいえば、ヨーロッパ風の建物とビーチリゾートがほどよく調和する都市。ビーチに面したホテルの部屋から眺めた、灯台が立つ岬と水平線も忘れられない。

 マンデラの足跡をたどる過程で偶然訪れた地方の街は、またいつか訪れたいなと思える素敵な場所だった。

2018.10.30(火)
文・撮影=芹澤和美