レスラーを演じるのではなく
素で勝負すること
――それでも、何かを変えなきゃいけないと、想いは強まっていきますよね。
正解は分からなかったんですけど、プロレスを世の中にもっと広めていくためには、リングの上で選手がこれまでと同じように頑張っているだけでは、何も変わらない。つまり、リングの中も変えなきゃいけない。そのために、プロレスを見たことのない人に対し、常にメッセージを送り続けて、初めての人が見ても分かる試合をやり続けました。マニア受けする試合だったり、マイノリティならではの結束の強さや嬉しさも大切ですけれど、それだけではいけないんです。その考え方や姿勢は、今でも変わっていませんね。
――そういった新日本プロレスへの愛から、「愛してま~す!!」という名言が生み出され、09年には「プロレス大賞」の最優秀選手賞も受賞。次第に、会場でのブーイングは沈静化していきます。
プロレスラーって、デカくて、いかつくて、野蛮そうで、タンクトップにバギーパンツ姿って、イメージが強いと思いますけれど、僕はそのプロレスラーっぽさがなかったことも良かったですし、逆にそれを利用しようとも思いました。それで、プロレスラーの棚橋弘至を演じるんじゃなく、ファッションも、仮面ライダーも、新日本プロレスも好きということを自分から発信し始めました。それにより、自分のオンとオフはなくなりましたが、それがファンからの支持に繋がりましたし、素で勝負できるやつがいちばん強いことを、身をもって感じました。
~次回は初主演映画『パパはわるものチャンピオン』についても語っていただきます~
棚橋弘至(たなはし ひろし)
1976年11月13日生まれ。岐阜県出身。立命館大学法学部卒業後、99年に「新日本プロレス」に入門。同年、真壁伸也(現・刀義)戦でデビューし、日本人離れした肉体で、団体最高峰のベルト・IWGPヘビー級王座に輝く。第56代IWGPヘビー級王者時代には、当時の歴代最多防衛記録を達成するほか、今年のG1 CLIMAX 28では3年ぶり3度目の優勝を果たした。
『パパはわるものチャンピオン』
いつも優しい父・孝志(棚橋弘至)が嫌われ者の悪役レスラー、ゴキブリマスクであることを知って、最初は恥ずかしく思っていた息子の祥太(寺田心)。だが、懸命に戦うゴキブリマスクの姿を見るうちに、次第に気持ちが変わりはじめていく。
http://papawaru.jp/
2018年9月21日より、全国公開
(C)2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2018.09.21(金)
文=くれい響
撮影=白澤 正
スタイリスト=小林洋治郎(Yolken)
ヘアメイク=山田みずき