恩田陸『蜜蜂と遠雷』を
彷彿させる天才たちの交流
ギフテッド(生まれながら)の天才と、努力の天才。比べられるものではないのに、比べてしまう。誰よりも、自分は努力するしかないと思っている当人が。
海難事故に遭い、手塚鉄雄の弾くチェロの音に導かれるように陸に流れ着いた橘郁未。郁未は、鉄雄にだけ心を許し、小6の夏に〈鉄雄 お前に俺の人生をやるよ〉と誓った。だが、互いが稀有な才能を備えているがゆえに、鉄雄の悩みは深い。郁未の才能をこじ開けたのは鉄雄なのに、郁未は〈友達の顔をした「怪物」〉だったからだ。演奏の完成度に、周囲の音楽家はモチベーションを削がれてまともな演奏ができなくなってしまうことを、名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの名にちなんで〈ハイフェッツ症候群〉と呼ぶらしい。そんな敗北から逃げた5年後、鉄雄は郁未と学生音楽コンクールで再会する。郁未の完璧な演奏を目の当たりにした鉄雄は、自分の弾き方で会場を魅了できるのか。
『僕のジョバンニ』 (既刊3巻)
チェロに関心のある同級生などいない田舎で育った鉄雄。唯一の理解者でもある兄・哲郎も、とある理由からもう一緒に弾いてはくれない。孤独に耐えてチェロに情熱を傾けていた鉄雄に、郁未という無二の相棒ができたかにみえたが……。さまざまな才能が相まみえ、開花する。
穂積 小学館 429円
Column
男と女のマンガ道
男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!
2018.06.30(土)
文=三浦天紗子