今月のテーマ「文豪入門」
【MAN】
カルトな人気を誇る作家
久生十蘭の魅力をマンガで
名作古典をマンガで読むブームが加速して、かれこれ10年くらいだろうか。ドストエフスキーの『罪と罰』や夏目漱石の『こころ』なんて、何度マンガにされたことか。しかしながら、マンガ化されれば読みやすいというのは誤解で、小説の世界観と合っていないタッチだと、絵がうまくても案外心に残らない。その点、河井克夫が久生十蘭の世界を描くというマッチングは、幸福なマリアージュ。不穏でシュールでグロテスクな世界観がくっきりと描き出され、心にジュッと焼きごてを押された気分。
久生十蘭は、戦前からペンを振るい、昭和モダニズムの象徴的雑誌『新青年』で活躍した作家。江戸川乱歩や横溝正史と並ぶダークな世界が持ち味だ。そんな彼の代表作のひとつ「予言」では、没落した伯爵家の跡取り・安部が、石黒という不気味な医学博士から受け取った手紙にあった予言の数々に翻弄されていく。畳みかけるどんでん返しにぞくり。
『久生十蘭漫画集 予言・姦』(全1巻) 河井克夫
「予言」では、安部の結婚披露式の会場に、いるはずのない石黒博士が現れたり、コンサート中に小さな福助が見えたり。絵が醸す大正レトロな雰囲気と、マジックリアリズム的な世界は相性抜群。「姦(かしまし)」は、女性ふたりによる過去の共謀に、意外な角度から光が当たる話。
KADOKAWA 1,000円
2018.05.01(火)
文=三浦天紗子