【WOMAN】
キレのいい線で描かれた
濃厚な百閒の人となり
鉄道マニアで、猫と酒が大好き。偏屈エピソードには事欠かない内田百閒。そんな文豪の作品やエピソードを、著者の目線を加えつつ再構築したコミックエッセイだ。書き上げた原稿を骨身を削って推敲するこだわりや、芸術院会員を辞退したときの〈イヤダカライヤダ〉の口上など、よく知られた頑固さとは裏腹に、最高50羽近くを飼育し、よく小鳥にまとわりつかれていた話や、百閒が文学仲間に捧げた追悼文からの〈ツンデレならぬ死後デレである〉という考察は、百閒の優しさが垣間見えて好もしい。
同時代の夏目漱石門下生との交流もいろいろ。借金を頼みに湯河原の漱石の家を訪ねたら、全裸で応対されたなど面白エピソードも。「ヒャッケンマワリ」というタイトルは、百閒の身辺を描くという内容紹介にもなっているが、同時に、底知れぬ魅力を持つ百閒の周辺をいつまでもぐるぐる回っていたいという気分を表明しているようにも思えるのだ。
『ヒャッケンマワリ』(全1巻) 竹田 昼
〈なんにも用事がないけれど汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う〉で始まる百閒の代表作「特別阿房列車」の解題から幕が開く、25の百閒ワールド。本書で百閒の愛らしさに触れたなら、彼の作品未体験者はすぐさま飛びつきたくなり、ファンならばより深く愛してしまうはず。
白泉社 880円
Column
男と女のマンガ道
男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!
2018.05.01(火)
文=三浦天紗子