肉イタリアンはやはり「牛」なのか!
ぎゅうぎゅうと予期せぬ牛が登場
シェフが現れて言うことには「今日は、パスタは出しません。ボリートにしましょう」。
なんと! キッチャーノは肉もおいしいけどパスタがとてもおいしい。しかし、おなかに余裕がない今、ボリート、つまり、スープ的なものならいいかもねぇ、なんて微笑み合っていたのだが……目の前に広がった光景に度肝を抜かれたよ……。なぜか鉢からそそり立つ骨! ボーンがボーン! その下にはあふれんばかりというかあふれている肉! シェフ再登場。「やっぱり牛肉を出さないとちょっと不安で(なぜかモジモジ)」。ひええええ。
しかしねぇ、これがほろほろととろけるように煮込まれていて、まあ、おいしいこと。おでんの牛すじをミクロの世界から見たようなものですよ。ゼラチン質もあり、ときどきプルン。根菜は甘く煮えておりました。おいしいスープは素敵なカップで登場し、牛のだしをきゅっと飲み干すことができる趣向。ちょっと中華麺が欲しくなりました。
その頃には視界の奥でぐるぐる回っていたチキンもこんがりと色づきはじめていた。姿の美しいマシーンは、粛々とパッツリとした丸鶏をぐるぐると円滑に回し、色よく焼き上げる。お腹は結構ないっぱいっぷりだけれど、大丈夫……かも!
このときシェフがまた驚きの一声。「ちゃんと焼けるか心配でしたよ~。なにしろ稼働するの半年ぶりなもので(笑)」。えっ!! キッチャーノ=牛に期待! な人がほとんどとは思っていたが、まさか半年ぶりの注文とは。(笑)をつけないとなかなか口にできないこともある(笑)。「このままだと元手をとるのに何年かかるかわかりませんね(笑)」。あははははは。
というわけで、黄金色に焼けたナイスバディのチキン。今日の鶏はフランス・ブレスのプーラルド(立派に育った雌鳥だ)。象牙色の骨を持つというふれこみで、いよいよぶつ切りにされてテーブルにやってくると、確かに象牙色の神々しい骨を拝むことができた。
そして、やはり美しいマシーンから生まれる焼き色の美しさたるや。皮がキャラメル色になってパツーン。なんだかよくわからないけれど、水分の飛び方がぜんぜん違うように感じた。パリッとしているだけじゃないんだな~、これが。パリッとしてるけれど、むちっともしているような……。初体験の質感でありました。
身も、ジューシーなだけじゃないんだな~、これが。肉質の良さもありましょうが、むっちり、ぷりん、として味わい豊か。澄んだ鶏のスープを飲んでいるようなクリアな味。
長年憧れていると、妄想でハードルを上げてしまうこともありがちだけれど、そんな妄想を軽~く飛び越えてくれる素晴らしいローストチキン。こんなおいしい料理が半年もオーダーされないなんて、ありえないよ!
というわけで、「キッチャーノ」を初めて訪れるなら仕方ないけれど、何度か行っている人にはぜひ体験してほしい、素晴らしきローストチキン。私は推していきたい。夢を叶えつつ、お腹いっぱいすぎたお腹に、しっかりお酒の効いたババと濃いコーヒーがまたおいしさひとしおでしたよ。
キッチャーノ
東京都港区赤坂3-13-13 赤坂中村ビルB1
電話番号 03-3568-1129
[2016年2月来訪]
北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2016.03.11(金)
文・撮影=北條芽以