「お米の学校」で伝えたい田んぼの大切さ

――「お米の学校」は、田植えから稲刈り、羽釜でご飯を炊いて食べるまでを体験できる、「リゾナーレ那須」を代表するプログラムですね。体験を通して、どんなことを伝えたいと思われますか?

小鷹 ここ50~60年ほどで日本の田んぼは半減していて、このままでは消滅するか、残っていても“希少な風景”になるかもしれないと言われています。人口が減り、食のスタイルが多様化するなかで、米の消費量も田んぼと同じく半減しています。

 しかし、米は日本の食文化の根幹ですし、田んぼは単に米を作るだけではなく、治水や、多様な生物を育む環境保全の役割なども担っている。米作りをやめても自然に還ることはなく、荒廃するだけです。「お米の学校」のテーマは、そうした危機感や田んぼの大切さをお客様と共有し、「田んぼとお米のことを考える人」を増やしていくことなんです。

 プログラムでは、私たちの暮らしの中で、お米や田んぼとどれくらい関わりがあるかをワーク形式で考える時間を設け、その後で、時期に応じた体験(田植え、稲刈り、脱穀・精米)をしてもらい、最後に田んぼの畔に設えたかまどで、羽釜での炊飯を行い、炊きたてのご飯でおむすびを結んでいただきます。

――どんな方が参加されるのですか。

小鷹 主な参加者は、小さいお子さん連れのご家族ですね。お父さんやお母さんも、子どものころからマンション住まいで農業とは無縁だったという方が多く、自分たちの食べるお米がどのように作られているのか、興味を持って話を聞いてくださいます。最近では、海外からのお客様も増えています。

――なかには、リゾートに来てまで「お勉強」なんて⋯⋯という方もいるのではないでしょうか。

小鷹 おっしゃる通りで、そこは回を重ねながら改善してきた部分です。お勉強部分をクイズ形式にしたり、重い話はプログラムの合間に雑談のようにして伝えたり。やはり、順番が大事なんですよね。

 楽しい、おいしい、うれしい――と、心がポジティブに動く瞬間があるからこそ、「知りたい」という好奇心が湧いてくる。まず田んぼやお米を好きになってもらい、楽しい思い出として持ち帰ってもらえたら、そしてときどき思い出してもらえたら、暮らしのなかでの意識が少し変わるかもしれません。「お米の学校」が、そんなきっかけづくりになればいいなと思います。

小鷹 稲作本店の井上さんがこんな話をされていたんですよ。「生産者と呼ばれる僕たちも、米以外は消費者だし、消費者と言われるお客さんたちも何かしら生産しているでしょう」と。昔はその循環がひとつの村のなかにあって、互いの技術やつくったものを分け合うのが当たり前だったんですよね。

 今では生産者と消費者が遠く離れ、壁に隔てられているような状況で、だからこそ「生産者と消費者の間にある壁をなくしたい」と言う井上さんの言葉に共感し、励まされました。「お米の学校」でも、「みなさんも生産者のひとりです」と、お伝えしています。

小鷹 田んぼ自体はおかげさまで順調に収穫量が増え、味も社内の提供基準を満たすほどに向上しました。ここは高地で川の上流に位置している小さな田んぼなので、幸い水不足に悩まされることもありません。

 「お米の学校」にご参加いただいた方には、秋に収穫したお米をおひとりにつき500g、ご自宅にお送りしています。2025年の4月からは施設内の2つのレストランでも通年提供できるようになりましたので、滞在中にぜひ味わってみてください。

次のページ 農園の特等席で味わう特別なブランチ