旧市街の地下にビールが流れる!
世界遺産の街の中にあるビール醸造所を訪ねた。ブルージュの旧市街に、三日月のロゴで知られるデ・ハルヴェマーン醸造所だ。旧市街には最盛期には32軒の醸造所があったが、今でもビールを造り続けているのはこの醸造所1軒を残すのみとなっている。
現在の経営者家族が醸造所を買い取って、デ・ハルヴェマーン醸造所として創業したのは1856年のことだが、同じ場所で16世紀からビールが造られていたという歴史をもつ。現在の経営者は6代目のザビエル・ヴァネスタさん。この醸造所は、ことさら地元の人々に愛されている。そこには波乱の歴史と、ザビエルさんの斬新なアイデアがあった。
1856年に創業したデ・ハルヴェマーン醸造所は、新しいビールの開発や、馬車による宅配などで順調に業績を伸ばし、2回の戦争も乗り切ってビールを造り続けた。
ところが、時代が変わり、旧市街に輸送用の大型車が入れなくなり規模の縮小を余儀なくされた。5代目の経営者ヴェロニク・ヴァネスタさんは、とうとう1988年に醸造所とビールの商標を売却、2002年には操業停止となってしまう。
それから3年後の2005年、ヴェロニクさんの息子のザビエルさんが、3年間眠っていた醸造所を買い戻したのだ。これにはブルージュ市民が大喜び。ビアカフェを造り、見学ツアーを催行するなど、ブルージュ市の観光推進の一端を担う醸造所となった。その後、商標も買い戻し、先祖代々のレシピながら、以前にも増して高い評価を受けるビールを造りあげたのだ。
ザビエルさんは輸出にも積極的で、次々と新しい経営戦略を打ち出して設備を拡大し、2008年には「フランダースを代表する若手起業家」に選ばれた。2010年には、旧市街から約3.2キロメートル離れた場所に瓶詰め工場を造ったが、ここで問題が発生した。醸造所から瓶詰め工場へのビールの輸送だ。
そこで、彼は世界中から注目される戦略を立てた。ビールの輸送のために、地下に約3.2キロメートルのパイプラインを通そうというのだ。
2014年にプロジェクトを立ち上げると、イギリスのBBCなど、世界中のメディアに取りあげられた。2015年、建設資金を集めるべく、クラウドファウンディングで呼びかけたところ、数百人がサポート。あっという間に10億円の資金が集まり、奇抜なアイデアのように思われたパイプラインが現実のものとなったのだ。
資金提供者への特典として、7500ユーロの出資で「一生毎日ビールを無料で飲める権利」も話題となった。地元住民の中には「庭にビールが出る蛇口を造ってくれるなら、うちを通ってもいい」などと言い出す人も。それ、うらやましすぎる(技術的にできないとのことだけど、笑)。クラウドファウンディングは2015年末で終了し、地下を掘る工事は始まっている。
右:入り口には土産物店があって、ビールやロゴ入りの小物などを購入することができる。
そんな話を聞きながら、醸造所併設のビアカフェで、ビールを片手にランチを食べていると、なんだかわくわくしてきた! 2016年の夏には、パイプラインを通ったビールを日本でも飲むことができるかもしれないのだから。
Brouwerij De Halve Maan(デ・ハルヴェマーン醸造所)
所在地 Walplein 26, 8000 Brugge, Belgium
電話番号 050-44-42-22
URL http://www.halvemaan.be/
2016.03.20(日)
文・撮影=たかせ藍沙