世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第119回は、大沢さつきさんがシンガポールを訪れ、新たにオープンした美術館と評判のラグジュアリーホテルについてレポートします!

アートの世界でも東南アジアの“ハブ”に

旧最高裁判所の堂々たる建物。外観をそっくり生かし、内部を美術館にリノベート。(c)Darren Soh and National Gallery Singapore

 シンガポールは経済成長著しい東南アジアの中で、ビジネスや金融の中心地だが、国策としてアートな国を目指していることでも知られている。

 英国軍の兵舎だったコロニアル様式の建物を、ギャラリー街にした「ギルマン・バラックス」には、世界的なギャラリーも軒をつらねる。アジアのハブ空港であるチャンギ国際空港内には、非課税の自由貿易エリアをつくり、世界中のコレクターやギャラリーの便宜を図っている。

かつての市庁舎と最高裁判所の建物を合わせて、美術館に改装した「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」。手前側が旧市庁舎部分だ。

 2015年の春には、パリ最大の私立美術館「ピナコテーク・ド・パリ」のヨーロッパ圏外初の分館、「シンガポール・ピナコテーク・ド・パリ」がオープン。

 そして2015年11月24日、最大の目玉である「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」が開館した。東南アジア全域の近現代アートを中心にした、世界最大級のパブリック・コレクションを所蔵する美術館だ。

ちょっと劇場のようなホワイエ空間。クラシックな建物の趣を壊さず、モダンアートの殿堂の雰囲気を漂わせてマス。

 全8000点のコレクションも凄いのだが、まず、目を惹くのがその建物と空間。旧市庁舎内には1965年、マレーシア連邦からの独立宣言が行われた大広間があり、美術館になったいまも保存されている。また、旧最高裁判所サイドには、被告人の牢屋だった部屋も残されていて、アート以前になかなか興味深い。2つの歴史的建造物をリンクさせたデザインも見事だ。

こちらが牢屋。4畳くらいの空間で、和式便器に似たトイレが残っている。正面入り口の近くなので、探してみて。
旧市庁舎と旧最高裁判所は、こんなブリッジで結ばれている。この空間が正面入り口となっていて、ガラス張りの天井をヴェールで覆い、“ウェルカム”を表現しているのだそうな。吹き抜けの空間にしたのは、これら歴史的建造物に畏敬の念を持って欲しかったからという。

2016.01.05(火)
文・撮影=大沢さつき