ボーナスディスクの充実ぶりがヤバい!
伊藤 ところでBase Ball Bearは3カ月連続3タイトルを“エクストリーム・シングル”と称して発売しているんですけど、それについているボーナスディスクというのがヤバい。デモ音源やインスト音源、Live音源だったりを20曲近くも収録しているんです。これってもうシングルCDとは呼ばないでしょ? って思うんだけど。完全生産限定だから販促というよりは、ファンへのサービスという意味合いが多いんですね。だけどもう、シングルの定義ってなに? って感じですよね。
山口 一般メディアがオリコンのウィークリーシングルチャートを音楽の指標としてフィーチャーして紹介するのをやめてくれれば良いんですよ。以前は、ヒット曲の指標になっていましたけれど、今は「コアファンがお金を使ってくれた指標」になってしまっています。ユーザー動向を総合的に組み上げたビルボードジャパンや、ユーザーのブログとツイートの投稿を解析したRUSHの方が、「ユーザーに支持された楽曲」の指標としては有効です。一方で、ドリカムのベスト盤売上が90万枚を超えたとのニュースがありましたが、「パッケージの所有の人気」にも意味はありますから、メディアの人たちも複数のランキングを区別して使い分けて欲しいです。
伊藤 チャートやランキングも、ユーザーが自分にあったものを選ぶ時代になっていくんでしょうね。エクストリーム・シングルもユーザーが価値を決めればいいと思う。
ボーナスディスクはさておき、表題の曲についてですが、詞の世界観が興味深い。終電後から始発までの東京湾の縁で過ごす男女の話なんですけど、この曲のタイトル「不思議な夜」っていうほど不思議なことは起こらないんです。ただ、2人が緩やかな青春を過ごしているだけ。全然ドラマチックではないんだけど……でも、すごく素敵な夜なんですよ。目にこびりつく景色がこの曲にはあると思いましたね。
山口 9月13日に行った初のリアルイベントで「妄想分析」の朗読をやったので、よりイメージが立体的になった気がします。朗読のNAOMI OBATAさんが、元ミスユニバースジャパンの準ミスで、雰囲気を持っている美女だったということもあり、楽曲を聴いて勝手に伊藤さんが妄想して作る世界が見えてきて、「妄想分析」が改めて好きになりました。今回のBase Ball Bearからはどんな物語が見えたのですか?
伊藤 首都高速11号の高架下、海へと降りた僕らは夜の湿った海風を思いっきり吸い込む。黒い波がバシャバシャと撫でるのを見つめながら、君がコンクリートに座るのを横目で知る。僕は3メートル離れたところにつっ立ったまま、共通の男友達がバイト先で出逢った女の子と付き合い始めたとか……そんな話をした。
君が頷くときに放つ声と、小さな笑い声が心地良い。波長がピタッとあって小さな笑い声が重なったとき、僕は君を見た。君も僕を見上げて目がしっかりと合う。バシャバシャというBGMだけが時間を埋め、友達ではありえないほどの間、見つめ合う。君の瞳が、わたしとキスしたい? って言っているみたい。僕の瞳が黙っていると、キスしてもいいよ! と君の瞳が積極的。僕も目で、本当にしちゃうぞ! って言い返す。いいよ。いいの? だってそういうことじゃないの? そうだね。じゃあ。はい。バシャバシャ、バシャバシャ、バシャバシャ。
山口 小さなラブストーリー。美女の朗読で聞きたいです(笑)。
Base Ball Bear「不思議な夜」
ユニバーサル ミュージック 2015年10月7日発売
完全生産限定盤[CD2枚組]1,800円(税抜)
■Base Ball Bearは2006年にメジャーデビューした4人組。本作は、CD2枚組からなる完全生産限定盤の“エクストリーム・シングル”を3カ月連続で3タイトルをリリースするというシリーズ“三十一”の第3弾。「それって、for 誰?」「文化祭の夜」に続いて、同シリーズのラストを飾る。
■「不思議な夜」作詞・作曲/小出祐介 編曲/Base Ball Bear
■オフィシャルサイトURL http://www.baseballbear.com/
2015.09.29(火)
文=山口哲一、伊藤涼