星野リゾート 界 遠州(前篇)
ほっとするような落ち着いた時間、いつもと違う非日常の過ごし方ができる日本旅館に泊まる旅「旅館道」。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡るこのコラムでは、温泉を備えた旅館を味わい、その土地ならではの文化や自然の魅力など日本を再発見する旅をします。
今回は、日本一のお茶処、静岡にある「星野リゾート 界 遠州」で、奥深い日本茶の世界にひたる旅をご紹介。
旅館道 その1
「部屋で飲むお茶選びから旅が始まる」
遠州と呼ばれる静岡県西部、浜名湖畔の古くから開けた舘山寺(かんざんじ)温泉の中に、湖を一望して立つのが「星野リゾート 界 遠州」だ。入り組んだように見える浜名湖は、思っていたより広く、静かに緑の水をたたえている。最寄り駅であるJR浜松駅は、東海道の宿場町でもあったわけで、江戸時代からこの浜名湖の眺めは、しばしの休息をもたらしていただろう。
沿道に立つ「星野リゾート 界 遠州」のサインの脇には、どこか昔の宿場を思わせる灯りと水車がある。そんな歴史的な佇まいから、エントランスに進むとがらりと趣向を変えて、一気に和モダンの世界へ。格子のガラス屋根から柔らかな光が注ぐ長い廊下を入ると、そこは広々としたロビーだ。
まずここでたくさん並ぶ茶葉が目を引く。静岡3銘茶と呼ばれ、産地名がつく「天竜」「川根」「本山」、そして「特焙りほうじ茶」と春から夏にかけての「新茶八十八夜」。これはいわずもがな「夏も近づく八十八夜」に摘む季節もののお茶だ。秋には、この新茶を蔵に入れて熟成茶にして出すのだという。
ここでは、部屋に決まったお茶を置くのではなく、これらのさまざまに用意された日本茶の中から気に入ったお茶の葉を部屋に持って行ってゆっくり楽しむという趣向。ゲストはチェックインの際に、季節のお茶のウェルカムドリンクをいただきながら、それぞれのお茶の説明を聞いて茶葉を選ぶ。まさに日本茶がお迎えする宿なのだ。
まず、ここで静岡3銘茶の味の特長を聞く。冴えの「天竜」はすっきりとした上品さが持ち味の高級茶、旨いら(遠州弁でおいしい)の「川根」は甘みと渋みのバランスがとれた静岡県を代表するお茶、香りの「本山」はふくよかな香りが徳川家康公に愛されたお茶。
そして、「特焙りほうじ茶」は煎じることで苦みが薄れてあっさりと飲みやすいお茶。また立春から数えて八十八日目に摘む「新茶八十八夜」は、昔から不老長寿の縁起物と言われるお茶。
お味見で出してもらったのは、この八十八夜。香りのよさもさることながら、一口含んで、ミネラルを感じるようなその深い味わいに「お茶ってこんなにおいしかったっけ」と驚かされる。
2015.06.13(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=石川啓次