真紅の鴨肉にうっとり 片栗粉のおしろいを纏って♪

 こしょうの効いた串焼きで「やっぱり鴨にはねぎだねぇ」なんて言いながら、ちょっとだけ昼酒を始める。そして、落ち着いた頃に登場するのが、堂々、鴨鍋である。

「ばん亭」の鴨串。要予約。こしょうが効いているのがポイント。

 お鍋だからなのか、訪れるといつも個室で、仲居さんがお鍋をセッティングしてくれる。坂網鴨は赤がとても深くて、見とれる美しさだ。部位ごとに質感が違うのも見ただけでわかる。

美しき鴨肉の盛り付け! まるで花が咲いたようです。こちらで4人分。

 こちらのお鍋が特徴的なのは、お肉を鍋に入れる前に片栗粉をまぶすところ。加賀料理の治部煮にも似た片栗使いである。これが煮たときに口にとろりと当たり、寒い北陸でとてもうれしい。

 さらに加賀らしいのが、わさびを思い切りたっぷりつけること。甘みも醤油の味もしっかりしただしに、片栗粉のとろみと、たっぷりのわさび。この組み合わせには文化の深さを感じる。

 澄んだ割下で肉を一回戦食べ終えたら、野菜やお麩などを入れ、鍋は進んでいく。もちろん随時お肉も入れて。ごぼうやきのこ類などだしが出るものも多く、鍋汁はじわじわと旨くなっていくのだ。

 さて、肉のなかでもひときわ繊細なオーラを放っているのが「ささみ」。4人分なのに、2切れしかない。北陸の友人たちはとても心が広く、「旅のお方が召し上がれ」と観光客組にささみをくれた。なんて優しいんだろう! ささみってなんて優しい味なのだろう。しかし、鴨らしく血の味もちゃんとして、味自体は強い。ああ、鴨のささみLOVE!

 北陸の優しさに包まれて、鍋は粛々と進む。肉と野菜を平らげたら、〆は悩んだ挙句にうどんにした。以前は「うどんのときに汁を節約しておじやもする」という私の得意技があったが、今回はうどんだけにした。大人の鍋だ。

 4人で育て上げただしでうどんを作って〆る。これこそが鍋の醍醐味、間違いない。

〆はうどん。醤油のしっかりした味付けのだしを吸って、吸って!

 今年も坂網鴨を食べられて満足! また来季も必ずや訪れたい。

 まだまだ、金沢紹介は頼まれてもいないのに続くので、お付き合いください。

フルーツむらはた
所在地 石川県金沢市武蔵町2-12
電話番号 076-224-6800

ばん亭
所在地 石川県加賀市大聖寺東町4-11
電話番号 0761-73-0141

[2015年2月来訪]

北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」

Column

北條芽以のLOVEレストラン

美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!

2015.03.30(月)
文・撮影=北條芽以