マニラという地の歴史に思いを致す旧城壁都市

 もともとマニラはタガログ族の居住地だったが、16世紀にスペイン人が到来し、以後300年以上にわたってスペイン統治時代が続く。現在フィリピン人の9割以上がキリスト教徒であるのはスペイン統治時代の影響だ。19世紀末にはアメリカの統治下に入り、近代化が進むと同時に公用語が英語になるなどアメリカの影響を強く受けるようになる。そして第二次世界大戦時に日本軍が占拠し、激しい市街戦の地となった。こうした波乱の歴史を物語るのが、マニラ市にあるイントラムロスだ。

 スペイン語で「壁の内側」を意味するイントラムロスは、スペイン人が政治や宗教の拠点として建設を始め、1606年に完成した旧城壁都市だ。城壁内には12のローマカトリック教会や修道院、学校などのロマネスク風建築が美しい景観を築いており、アメリカの統治下でもその姿は変わらなかった。しかし、第二次世界大戦時に日本がフィリピンに進軍した折、最終的に日本軍がイントラムロスに立てこもったことで米軍の砲撃を受け、今ではほとんどその姿を残していない。

 このイントラムロスを訪ねるツアーも、ザ・ペニンシュラアカデミーのプログラムの一つだ。プライベートガイドとして歴史家が同行し、イントラムロスに唯一残る教会でユネスコ世界遺産に登録されているサン・アグスチン教会や、スペイン統治時代の裕福なフィリピン人の邸宅を再現した博物館「カーサ・マニラ」など、様々な史跡や施設を案内し、この地の歴史を詳しく解説してくれる。

 日本人にとっては厳しい史実を目にし、深く考えさせられる部分もあるが、プログラムを企画するザ・ペニンシュラマニラのスタッフは、どのゲストも決して不快な思いをしないよう常に配慮している。優しさに満ちた彼らのホスピタリティは、間違いなく現代の日本とフィリピンを結ぶ架け橋となっているのだ。

 さて、せっかくマニラを訪れたのなら、最新のダイニングも味わっておきたい。ザ・ペニンシュラマニラのコンシェルジュが勧めてくれたのは、伝統的な郷土料理をコンテンポラリーに解釈したテイスティングコースを主に提供する「ハパグ」。ハパグとはフィリピンの家庭で食事の際に使われる脚の短いテーブルのことで、ナヴさんとサーディさんという二人のシェフが「誰もがその日の出来事を語り合い、喜びや悲しみをテーブルに持ち寄りながらも、安心できる場所に」という思いを込めて店名にしたという。

 この日のテイスティングコースには、西ミンダナオ地方の料理をベースとしながら意外性に満ちた一皿に仕上げた数々のメニューが登場した。パンチの効いたサンバルソースのミーゴレンや、魚を使ったスパイシーな郷土料理「シヤグル」をアレンジしたロティなど、料理はどれも美しいビジュアルと想像の及ばない深い味わいでゲストを楽しませてくれるものばかり。

 味噌などの自家製発酵食品やハーブ、野草などもふんだんに取り入れ、ペアリングも今回はノンアルコールのモクテルのみ。大胆な発想とゲストのウェルネスを思いやる繊細さに満ちたディナーに、マニラの最先端ダイニングの矜持を味わわせてもらった。

Hapag(ハパグ)

所在地 7F, The Balmori Suites, Hidalgo Drive, Rockwell Center, Makati City, Metro Manila, Philippines
電話番号 +63 917 888 5757
営業時間 18時~21時
定休日 月曜
https://www.hapagmnl.com/

次のページ 深い緑の中で心身を整えるウェルネスリゾート

CREA Traveller 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。