近年、世界でもその品質が高く評価されている日本チーズ。今や全国には約300のチーズ工房があるといわれ、世界最大級のチーズコンテスト「World Cheese Awards」(以下WCA)でも、日本のチーズは注目を集める存在に。なかでも長野には、世界に誇れる職人たちが集まり、風土に根ざした個性豊かなチーズを生み出しています。今回の旅では、「WCA 2025」にも出品する長野の工房をめぐり、チーズから広がるおいしい物語に触れてきました。

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・循環型の農と食で紡ぐ、健やかなヤギチーズ【長野県上田市】チーズ工房カプレット
・自家製チーズと絶景が楽しめる話題のおでかけスポット【長野県東御市】アトリエ・ド・フロマージュ 森のチーズテラス
・世界最大級のチーズコンテスト「World Cheese Awards」とは?


猫をイメージした遊び心あふれるチーズで世界へ

 JR佐久平駅から車で約30分。最初に訪れたのは、美肌の湯で知られる春日温泉にほど近い場所に工房を構える「ボスケソ・チーズラボ」です。オーナーの是本健介さんは航空宇宙工学の博士号を持ち、ジェット機のエンジンやF1マシンの車体設計にも携わった経歴を持つ異色のチーズ職人です。チーズ好きが高じてチーズプロフェッショナルとなった是本さんは、2016年に製造・販売ができるチーズ工房を佐久市に開設しました。

 欧州の伝統製法をベースにしつつ、地元の酒蔵の乳酸菌や温泉水を取り入れるなど、信州の恵みを生かしたチーズ作りが是本さんのスタイル。

「ヨーロッパのチーズをなぞるだけではなく、信州らしさ、日本らしさ、アジアらしさとは何かを常に模索しています。そのなかで、地域資源がチーズの菌に働きかけ、味わいやフレーバーに“1+1=10”の化学反応を生むのが理想。ヨーロッパで評価されるかはわかりませんが、日本チーズにとって必要なことだと思っています」

 現在は、牛乳とヤギ乳で20種類以上のチーズを製造し、Japan Cheese Awards(以下JCA)で4大会連続金賞&最優秀部門賞を受賞。三毛猫をイメージした3色チーズ「KARAMATSU Mike」(100g 1,350円)など、独創的なチーズは全国的に知られています。

今年のWCAには、「KARAMATSU Chatora GURA」で挑戦。茶トラ柄の看板猫・グラちゃんをイメージしたこのチーズは、はじめはモチモチとしてミルキーな味わいで、熟成が進むとほろほろとした食感になり、旨味の塊へと変化します。

 JCAでは結果を出してきた是本さんですが、WCAは過去4回出場してBronze賞を2回受賞。挑戦を続けるなかで、2年前のノルウェー大会では審査員も経験し、海外と国内の嗜好性の違いを学んだそう。以降、海外でも通用する味わいに調整を続け、「その答え合わせが今回の大会」と意気込みます。

「WCAはカテゴリーを問わない45~50種のチーズを1ブロックとして、優劣を決める勝ち上がり方式なんです。そのため、個性が強かったり、塩・旨味・香りのバランスが高いものが比較的残りやすい傾向なので、今年出品するチーズは“余韻の長さ”にこだわりました」

 KARAMATSU Chatora GURAは、サンドイッチの具や、チーズトーストにしたり、パスタにトッピングするのもおすすめ。ワインはもちろん、純米酒や熱燗とも相性抜群です。

「チーズはどんな料理や飲みものにも寄り添える懐の深い食材です。私もチーズのように職人同士をつなぐ存在になるのが目標。最近は、長野の発酵職人で構成された『発酵バレーNAGANO』や、チーズ職人のネットワーク『Team チーズ NAGANO』も立ち上がり、地域の食文化はさらに広がりを見せています」

 そんな地域のつながりから生まれたのが、佐久穂町「黒澤酒造」の蔵付き乳酸菌で発酵させたソフトチーズ「MIMAKI Kimoto」。このチーズに合う日本酒を教えてもらい、さらに「お昼を食べるなら、ぜひ近くの『the OK bread & pizza』に行ってみて」と是本さん。おすすめを胸に、ボスケソを後にしました。

ボスケソ・チーズラボ

所在地 長野県佐久市春日2208-2
電話番号 050-1170-2575
営業時間 10:00~17:30
定休日 月・金曜
https://bosqueso.official.ec/

2025.10.20(月)
取材・文=田辺千菊(Choki!)
撮影=山元茂樹