怒濤(どとう)の設定が続く

 携帯電話もスマホも、多少の書類や身分証明書の提示は必要だろうとは思っていたが、本人確認についてはとても厳重だった。パスポート等による本人確認が終わると、次は私個人が使えるようにするための設定である。電話番号については、彼は私の固定電話の番号を聞き、三種類の候補を提示してくれた。すべて最後の四桁が固定番号と一致していた。おばちゃんにはこのほうが覚えやすいと気を遣ってくれたのだろうか。どれにしようかと考えていると、占いにも通じている彼女が、

「ちょっと見せて」

 と番号がプリントされた書類をのぞきこみ、羅列した数字を暗算しているようなしぐさをした後、

「これがいいんじゃない」

 とひとつの番号を指さした。それは私が選ぼうとしていた番号とは違った。

「それじゃあ、これで」

 私はスマホで電話をする予定はほとんどないし、なぜその番号がいいといったのかはわからないまま、彼女の判断に従った。

 私はスマホもパソコンのように、購入したら家に持ち帰って開封し、充電したら自分で勝手に設定できるものだと思っていたが、この場でやるという。

「まずうちの会社のサイトにアクセスするための、暗証番号とパスワードをお願いします」

 そんなものなど必要と思っていなかったので、

「えっ、えっ、ここでですか」

 とあわてながら、急遽、自分が覚えやすい、生年月日などではない暗証番号と、使い回しではないパスワードをその場で決めて、それを書いたメモを彼に渡した。彼はそれを私に再度確認しながら、自分でメモに書き写し、それを私に渡して、

「これは大切ですから、絶対になくさないでくださいね」

 と念を押した。私も暗証番号とパスワードは大事だからね、と納得して、

「わかりました」

 とそのメモをバッグの小さな内ポケットに入れた。すると、

「次にメールアドレスを決めてください」

 という。そんなものもまったく考えていなかったので、あたふたしながら決めた。するとさっきと同じ手順で彼は書き写したメモを私に渡しながら、

「これは大切ですから、絶対になくさないでくださいね」

 と再度念を押した。

「わかりました」

 とまたバッグの内ポケットに入れた。すると今度は、

「Apple IDのパスワードをお願いします。IDはさきほどのメールアドレスになります。それとこちらのパスワードは一文字だけ大文字にしてください」

 といわれた。

2025.09.12(金)
文=群 ようこ