前田「あの時にしか出せない空気感が収められている」

前田 会うのは久しぶりだけど、ドゥナちゃんの作品は、配信などで見て勝手に近くに感じていたから、すごく楽しみでした。

関根 私はドゥナが『空気人形』(09年)のプロモーションで来日した時に会ったんです。「お互い仕事を続けていれば、また会えるよね」と別れて以降、なかなか会えなかったけど、今回やっと会えて嬉しいです。

──20年ぶりにスクリーンでご覧になって、いかがでしたか。

香椎 この20年でいろんなことが変わったな、と思いました。部室のシーンで出てくるカセットやMDを懐かしく感じることに時代の速さを感じて、もっと丁寧に生きないといけないと感じました。

前田 好きな男の子から家電(自宅に電話)が来るとか、職員室で楽譜をコピーするとか、今ならスマホ1台ですんでしまうことがすべてアナログで。あの時にしか出せない空気感が収められているのも、この映画の魅力だと感じました。

ドゥナ 携帯はまだ折りたたみ式で、好きな音楽をカセットに録音して友達にあげたりしていたよね。スマホやiPadを当たり前に使っている今の子が観たら、SF映画を観ているような不思議な感覚になるのではないかと思いました。

ペ・ドゥナ「あの頃の私は悩みも気負いもなく、本当にピュアだった」

 【『リンダ リンダ リンダ』が上映された時、ブルーハーツはすでに解散から10年が経っていた。作品では、疾走感のあるメロディーとストレートな歌詞が時代を超えて若者たちの心に響いていたが、それから20年が過ぎた今もなお、楽曲と映画は色褪せない輝きを放っている。】

ドゥナ 私は、この作品を「若かった頃の美しい青春映画」だとは思っていません。私自身は分別のないところも、純粋な気持ちで生きたいと思っているところも、撮影当時のまま変わっていないつもりです。

 ただ、20年ぶりにスクリーンで観て、まだ演技経験も浅かった私たちが、どう演技をするかよりも、朝から晩まで練習して、文化祭を成功させることだけを思っていたことに驚きました。今の私は、座長として現場を引っ張り、映画の成功も考える立場になりましたが、あの頃の私はそんな悩みも気負いもなく、本当にピュアだったなと思いました。

前田 ブルーハーツは、今でもカラオケで盛り上がるし、全然古さを感じません。本当にすごいバンドだと思います。それを女子高生が歌うという組み合わせも最高で、あの撮影中は実際の高校生活よりも青春していたな、と思います。

2025.09.09(火)
文=相澤洋美